魅惑の絶対君主


宅配員さんは気を使ってか、廊下の少し離れた場所に立っていて、

通話が終わったことに気づくと駆け寄ってきてくれた。



貸してくれたことにもう一度お礼を言って、深く頭を下げる。



「お時間使わせてすみません。気をつけて帰ってくださいね」

「はい。では失礼します! ……それで、あの……」



一度は踵を返した宅配員さんが、再びこちらを振り向いた。



「オレ学生なので、土曜の昼だけの担当なんですけど……。もしよかったら、来週もこうやって対面でお届けしていいですか……?」


「え?」


「ウチの料亭はお客様のご意見を大事にしてるので、よかったら味のご感想とか伺えたらなって……」



ああ、なるほど、そういうことか。



「もちろんです。インターホン鳴らしてもらえたらすぐに出ますね!」


そう返事をして見送ったけど……。

いいよね? これくらい。

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