悲劇のフランス人形は屈しない3
(なんだか懐かしい感じ…)
びゅんびゅん飛んでくるボールを避けながら、私はそんなことを考えていた。
体育の授業中、見事に三年間同じクラスになった郡山(こおりやま)は、ここぞとばかりに私を狙ってボールを投げつけてくる。体育中に起きた怪我は、虐めではなくただの事故。西園寺や藤堂の話が学校中に広まっているというのに、郡山だけは態度を変える様子はなかった。授業中こそ冷やかしや暴言はなくなったとは言え、体育の時間になるといきなり豹変する郡山を見て、私はため息を吐いた。郡山が私を敵対視する理由は最後まで分からなかったが、人間、一人や二人、生理的に合わない人がいるものだ。
(仕方ない、付き合ってやるか。あと1年だし)
私は逃げるのを止め、郡山の投げたボールを受け止めた。そして、相手チームの前線に出ている郡山の肩めがけて、思いっきり腕を振りかぶった。
バコンと大きな音をさせて郡山の肩にぶつかったあと、ボールが宙高くに舞い上がった。
「どいて、邪魔!」
郡山が大声で叫び、コート内にいた女子が一斉に四方に散った。郡山はボールの下まで走り、見事腕の中に収めた。こちらに向かって、郡山がにやりと笑った。
「セーフ」
私は肩をすくめた。
「あら、残念」
しかしその言い方が気に障ったのか、郡山はボールを両手でバシンと叩くとコートに戻り、私に向かってボールを投げようと構えた。
その時、体育の先生が笛を大きく吹いた。
「今日はここまで!片づけするわよ」
先生の言葉にかぶせるように、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
私は郡山に背を向け、転がっているボールを片づけようとした時、誰かが「危ない!」と叫んだ。郡山がボールを投げたのが肩越しに見えたのと同時に、私はひょいと体を斜めにし、ボールを避けた。ボクシングで鍛えた瞬発力がここで生きた瞬間だった。
「残念。外れね」
私がそう言うと、郡山は顔を真っ赤にして何か叫んでいたが、体育の先生の激怒した声にかき消された。「次やったら親を呼ぶわよ!」
「白石ちゃんもだいぶ挑発してたね~」
隣のコートを使っていた蓮見がいつの間にか隣にいた。
「見てたの」
私は落ちていたボールを拾う。
「一部始終ね」
「実はお前って性格悪いよな」
後ろにいた榊は私からボールを奪い取り、数メートル離れているカートにバスケのシュートフォームでボールを投げ入れた。綺麗な弧を描いてボールは他の球の上に綺麗に収まった。
「私はただ相手してあげただけ」
ガッツボーズを作っている榊を横目に私は言った。
コートやボールを片づけている内に、体育に参加しているようで参加していない五十嵐や天城も合流した。
「女子って怖いね」
眠そうに欠伸をしながら五十嵐が呟いた。
「怖いわよ」
私は同じクラスの女子の視線を感じ取りながら答えた。榊を除いたお三方と一緒にいるだけで注目の的になってしまうのを、同じクラスになってから嫌というほど経験している。
(今まで全く気にしてなかったけど、この子たち人気なんだよな…)
他クラスから蓮見や天城が体育をしている姿を拝みたいと、駆け付けて来た生徒たちを眺めながら私はため息を吐いた。目立つ三人と一緒にいれば、必然的に自分にも注目が集まる。しかもとても悪い意味で。それが居心地悪くて仕方ない。
(卒業までに女友達を作りたかったけど諦めた方がいいかな…)
女子の冷たい視線を背中に受けながら、私は体育館を後にした。
びゅんびゅん飛んでくるボールを避けながら、私はそんなことを考えていた。
体育の授業中、見事に三年間同じクラスになった郡山(こおりやま)は、ここぞとばかりに私を狙ってボールを投げつけてくる。体育中に起きた怪我は、虐めではなくただの事故。西園寺や藤堂の話が学校中に広まっているというのに、郡山だけは態度を変える様子はなかった。授業中こそ冷やかしや暴言はなくなったとは言え、体育の時間になるといきなり豹変する郡山を見て、私はため息を吐いた。郡山が私を敵対視する理由は最後まで分からなかったが、人間、一人や二人、生理的に合わない人がいるものだ。
(仕方ない、付き合ってやるか。あと1年だし)
私は逃げるのを止め、郡山の投げたボールを受け止めた。そして、相手チームの前線に出ている郡山の肩めがけて、思いっきり腕を振りかぶった。
バコンと大きな音をさせて郡山の肩にぶつかったあと、ボールが宙高くに舞い上がった。
「どいて、邪魔!」
郡山が大声で叫び、コート内にいた女子が一斉に四方に散った。郡山はボールの下まで走り、見事腕の中に収めた。こちらに向かって、郡山がにやりと笑った。
「セーフ」
私は肩をすくめた。
「あら、残念」
しかしその言い方が気に障ったのか、郡山はボールを両手でバシンと叩くとコートに戻り、私に向かってボールを投げようと構えた。
その時、体育の先生が笛を大きく吹いた。
「今日はここまで!片づけするわよ」
先生の言葉にかぶせるように、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
私は郡山に背を向け、転がっているボールを片づけようとした時、誰かが「危ない!」と叫んだ。郡山がボールを投げたのが肩越しに見えたのと同時に、私はひょいと体を斜めにし、ボールを避けた。ボクシングで鍛えた瞬発力がここで生きた瞬間だった。
「残念。外れね」
私がそう言うと、郡山は顔を真っ赤にして何か叫んでいたが、体育の先生の激怒した声にかき消された。「次やったら親を呼ぶわよ!」
「白石ちゃんもだいぶ挑発してたね~」
隣のコートを使っていた蓮見がいつの間にか隣にいた。
「見てたの」
私は落ちていたボールを拾う。
「一部始終ね」
「実はお前って性格悪いよな」
後ろにいた榊は私からボールを奪い取り、数メートル離れているカートにバスケのシュートフォームでボールを投げ入れた。綺麗な弧を描いてボールは他の球の上に綺麗に収まった。
「私はただ相手してあげただけ」
ガッツボーズを作っている榊を横目に私は言った。
コートやボールを片づけている内に、体育に参加しているようで参加していない五十嵐や天城も合流した。
「女子って怖いね」
眠そうに欠伸をしながら五十嵐が呟いた。
「怖いわよ」
私は同じクラスの女子の視線を感じ取りながら答えた。榊を除いたお三方と一緒にいるだけで注目の的になってしまうのを、同じクラスになってから嫌というほど経験している。
(今まで全く気にしてなかったけど、この子たち人気なんだよな…)
他クラスから蓮見や天城が体育をしている姿を拝みたいと、駆け付けて来た生徒たちを眺めながら私はため息を吐いた。目立つ三人と一緒にいれば、必然的に自分にも注目が集まる。しかもとても悪い意味で。それが居心地悪くて仕方ない。
(卒業までに女友達を作りたかったけど諦めた方がいいかな…)
女子の冷たい視線を背中に受けながら、私は体育館を後にした。