悲劇のフランス人形は屈しない3
出会い
中々眠れない夜を過ごし、目が覚めると外は明るくなっていた。枕元のスマホをチェックすると、朝の5時になったばかりだった。数時間しか眠れていないのに、いつもと同じ時間に目覚めてしまったことを悔やんだ。隣では、未央が身動きせずにぐっすり眠っている。
また寝に戻ろうと横になっても、昨夜の天城の顔を何度も思い出してしまい、腹の中のバタフライが暴れ出だし、寝付けない。
「走るか…」
私は布団をはがして、動きやすい服装に着替えると夏の香りが漂う外へと向かった。伊坂家の方をちらりと見ると、すでに全員が起床しているようで朝特有の慌ただしさがカーテンの隙間から見えた。
「あの子たちは、何時に起きるかしら?」
窓が開いているのか、伊坂の母の声がはっきり聞こえる。
「寝かせといていいんじゃないか。疲れているだろうし」
優しそうな父親の声が聞こえた。
「そうね。お昼ご飯になったら、起こしましょうか。今日は夕方に帰るんだっけ?」
「そうみたい」
そう言った伊坂が窓を全開にしようと、窓枠に寄った。そこで、そこに立ち尽くしていた私とばっちり目が合った。
「あ!白石さん、もう起きてたの?ちょうど今から朝ごはんなんだけど、一緒にどう?」
どうしようかと、悩んでいるとお腹がきゅるると鳴った。
あまりのお腹の音の大きさに、窓枠に近づいた母親も笑った。
「こちらにいらっしゃって」
「すみません…」
私はご厚意に甘えて伊坂家族と朝ごはんを共にすることになった。
久しぶりの田舎の食事に舌鼓を打っていると、隣に座っている伊坂がお茶を注ぎながら言った。
「私、白石さんに紹介したい人がいるんだけど」
麦茶を受け取り、私は伊坂の顔を見つめた。
「紹介したい人?」
「あら。もしかして、“りっくん”?」
台所から母親が嬉しそうに言った。
「そう!白石さんの話をしたら、ぜひ会ってみたいって言ってた」
「私の話?」
なぜか不安になった。友達に私の話をするほど話題があっただろうか。
「うん。真徳高校で唯一私に優しくしてくれた友達って話したことがあるんだ」
「りっくん、こっちに帰って来てるの?」
伊坂母は台布巾でテーブルを拭きながら聞いた。
「うん。婚約したから、家族に相手を紹介しに来たって。数日前に連絡があった」
「あらご結婚?おめでたいわね!何か持って行く?」
「うちで取れた、茄子でも持って行ったらどうだ?今年はゴーヤもいい出来だよ」
新聞を読んでいた伊坂父は、顔を上げると誇らしげに言った。
「でもりっくん家の野菜に比べたら…」
母が困ったように言った。
「それもそうか…」
父は明らかにがっかりした顔をしている。
「りっくんはね」
伊坂が隣で言った。
「今は家を出て一人暮らしをしてるんだけど、実家は立派な農家なんだ。ここに引っ越して来た時に、数えきれないくらい野菜をおすそ分けしてくれて。その野菜がとっても美味しいの!愛情込めて育てられてんだって、すぐ分かるほど」
嬉しそうに言う伊坂は、どこか自慢げだった。
(確か、伊坂さんのメールにもそんなことが書いてあった気がする)
慣れない土地にいきなり住むことになって心配していたが、それなりに楽しんでいたことを知って安心している自分がいた。
「りっくん一家はね、私たちが農業で苦戦していた時に手伝ってくれたんだ。最初に会った時のことは、一生忘れないと思う。本当にかっこよかった…」
「里英の初恋だったわね」
からかうように母親が笑った。
「やめてよ!」
伊坂が怒ったように頬を膨らませた。それから私の方を向いて言った。
「今の忘れてね。りっくんは、こっちに長く滞在することはないんだけど、帰省した時には必ず私に会いに来てくれるの。優しいよね」
もうすぐ結婚する“りっくん”に恋しているようにしか見えない伊坂に、私は笑顔を向けた。
「会えるのを楽しみにしてるわ」
また寝に戻ろうと横になっても、昨夜の天城の顔を何度も思い出してしまい、腹の中のバタフライが暴れ出だし、寝付けない。
「走るか…」
私は布団をはがして、動きやすい服装に着替えると夏の香りが漂う外へと向かった。伊坂家の方をちらりと見ると、すでに全員が起床しているようで朝特有の慌ただしさがカーテンの隙間から見えた。
「あの子たちは、何時に起きるかしら?」
窓が開いているのか、伊坂の母の声がはっきり聞こえる。
「寝かせといていいんじゃないか。疲れているだろうし」
優しそうな父親の声が聞こえた。
「そうね。お昼ご飯になったら、起こしましょうか。今日は夕方に帰るんだっけ?」
「そうみたい」
そう言った伊坂が窓を全開にしようと、窓枠に寄った。そこで、そこに立ち尽くしていた私とばっちり目が合った。
「あ!白石さん、もう起きてたの?ちょうど今から朝ごはんなんだけど、一緒にどう?」
どうしようかと、悩んでいるとお腹がきゅるると鳴った。
あまりのお腹の音の大きさに、窓枠に近づいた母親も笑った。
「こちらにいらっしゃって」
「すみません…」
私はご厚意に甘えて伊坂家族と朝ごはんを共にすることになった。
久しぶりの田舎の食事に舌鼓を打っていると、隣に座っている伊坂がお茶を注ぎながら言った。
「私、白石さんに紹介したい人がいるんだけど」
麦茶を受け取り、私は伊坂の顔を見つめた。
「紹介したい人?」
「あら。もしかして、“りっくん”?」
台所から母親が嬉しそうに言った。
「そう!白石さんの話をしたら、ぜひ会ってみたいって言ってた」
「私の話?」
なぜか不安になった。友達に私の話をするほど話題があっただろうか。
「うん。真徳高校で唯一私に優しくしてくれた友達って話したことがあるんだ」
「りっくん、こっちに帰って来てるの?」
伊坂母は台布巾でテーブルを拭きながら聞いた。
「うん。婚約したから、家族に相手を紹介しに来たって。数日前に連絡があった」
「あらご結婚?おめでたいわね!何か持って行く?」
「うちで取れた、茄子でも持って行ったらどうだ?今年はゴーヤもいい出来だよ」
新聞を読んでいた伊坂父は、顔を上げると誇らしげに言った。
「でもりっくん家の野菜に比べたら…」
母が困ったように言った。
「それもそうか…」
父は明らかにがっかりした顔をしている。
「りっくんはね」
伊坂が隣で言った。
「今は家を出て一人暮らしをしてるんだけど、実家は立派な農家なんだ。ここに引っ越して来た時に、数えきれないくらい野菜をおすそ分けしてくれて。その野菜がとっても美味しいの!愛情込めて育てられてんだって、すぐ分かるほど」
嬉しそうに言う伊坂は、どこか自慢げだった。
(確か、伊坂さんのメールにもそんなことが書いてあった気がする)
慣れない土地にいきなり住むことになって心配していたが、それなりに楽しんでいたことを知って安心している自分がいた。
「りっくん一家はね、私たちが農業で苦戦していた時に手伝ってくれたんだ。最初に会った時のことは、一生忘れないと思う。本当にかっこよかった…」
「里英の初恋だったわね」
からかうように母親が笑った。
「やめてよ!」
伊坂が怒ったように頬を膨らませた。それから私の方を向いて言った。
「今の忘れてね。りっくんは、こっちに長く滞在することはないんだけど、帰省した時には必ず私に会いに来てくれるの。優しいよね」
もうすぐ結婚する“りっくん”に恋しているようにしか見えない伊坂に、私は笑顔を向けた。
「会えるのを楽しみにしてるわ」