悲劇のフランス人形は屈しない3
バレンタインデー
バレンタインデーが近づくと、学校内は一気に甘酸っぱいムードへと変わる。それはまだ受験結果が出ていない生徒がいる3-Aも例外ではなかった。自由登校だというのに、イベントが近づくとみんな学校にまた来たくなるようだ。男子も女子もそわそわし始め、男子は女子の方を見ているし、その視線を受けて女子は頭を寄せ合って何やら相談事をしている。合否の結果が出るまで、自分は何も手が付けられなかったというのに、他のクラスメートは問題なさそうだ。来たるイベントに心躍らせているのが目に見えて分かった。
私は天城と蓮見に目を向けた。
私は既にみんなに合格した旨を伝えていたが、天城と蓮見は頑なに何も教えてくれなかった。しかし、どこか緊張の解けた様子を見るに、第一志望には受かっていそうだ。だからなのか、榊がこんな提案をしても誰も反対しなかった。
「皆で遊びに行こうぜ!」
「賛成」
真っ先に手を挙げたのは、五十嵐だった。普段は何にも興味がなく寝てばかりいるが、皆で遊ぶとなると途端に活力が沸いて来るようだ。
「またキャンプする?」
蓮見が天城の席に座りながら言った。
「冬のキャンプもいいな!」
榊が嬉しそうに手を叩いたが、五十嵐が一蹴した。
「寒いから却下」
「んーじゃあ海外でも行く?フィジーなら俺ん家の別荘があるし」と蓮見。
「いいね~」と五十嵐が賛成した。
「海もいいな。浜辺でバーベキューやろうぜ!」
榊は楽しければどこでも良さそうだ。
「確か、海斗、ジェットスキーの免許持ってたよね?」
蓮見が天城に向かって言っている。
「マジか、すげぇな!俺も乗らせてくれ」
「行くのいつにする?」
男子でわいわいと盛り上がっている。
ふと数人の視線を感じて、私は見ていたスマホから顔を上げた。
「え、私は行かないわよ?」
「は?今の流れ的にお前も行くだろ」
榊が呆れたように声を出した。
「パスポート持ってないし」
(多分…)と私は心の中で付け加えた。まだ白石透の体になってから、何度も母親に阻止され、海外旅行のチャンスを逃している。パスポートがあるかどうかさえ定かではないが、問題はそこではない。
「今、ちょっと忙しいの」
それからまたスマホに目を移した。
バレンタインデーが近いということは、まどかの誕生日も近いということだ。来月にはアメリカに行ってしまう妹のために、盛大な誕生日会を開いてあげたい。それで自分でも作れるデコレーションケーキを調べているが、中々いいのが見つからず困っていた。
「なんだよ、盛り下げてくれやがって…」
榊が小さく舌打ちをした。
「私抜きで行けばいいじゃない」
「お前が行かないなら、未央だって…」
そこまで言いかけて榊は口をつぐんだ。
「は~ん。なるほど、そういうことね~」
私がにやりと笑うと、そこに五十嵐が追いうちをかける。
「なんだ~。片想い相手と甘~い思い出を作りたかっただけですか~」
「俺たちはおまけですか~」蓮見がそれに便乗する。
「ずいぶんと遠回りだな」天城はため息を吐いている。
「う、うるせえ!」
顔を真っ赤にして榊が立ち上がった。
「お前らなんか…!」
「はいはい。からかってごめんね。私は、まどかの誕生日会を開きたくて…」
そこではたと蓮見と目が合った。脳内が素早く回転を始める。
(ふふ。いいこと思いついちゃった)
「白石ちゃんが悪い顔してる!」
蓮見が叫んだ。
「その顔、人前でするのは止めた方がいいよ」
真剣な顔で五十嵐が言った。
「不気味だから」
私は天城と蓮見に目を向けた。
私は既にみんなに合格した旨を伝えていたが、天城と蓮見は頑なに何も教えてくれなかった。しかし、どこか緊張の解けた様子を見るに、第一志望には受かっていそうだ。だからなのか、榊がこんな提案をしても誰も反対しなかった。
「皆で遊びに行こうぜ!」
「賛成」
真っ先に手を挙げたのは、五十嵐だった。普段は何にも興味がなく寝てばかりいるが、皆で遊ぶとなると途端に活力が沸いて来るようだ。
「またキャンプする?」
蓮見が天城の席に座りながら言った。
「冬のキャンプもいいな!」
榊が嬉しそうに手を叩いたが、五十嵐が一蹴した。
「寒いから却下」
「んーじゃあ海外でも行く?フィジーなら俺ん家の別荘があるし」と蓮見。
「いいね~」と五十嵐が賛成した。
「海もいいな。浜辺でバーベキューやろうぜ!」
榊は楽しければどこでも良さそうだ。
「確か、海斗、ジェットスキーの免許持ってたよね?」
蓮見が天城に向かって言っている。
「マジか、すげぇな!俺も乗らせてくれ」
「行くのいつにする?」
男子でわいわいと盛り上がっている。
ふと数人の視線を感じて、私は見ていたスマホから顔を上げた。
「え、私は行かないわよ?」
「は?今の流れ的にお前も行くだろ」
榊が呆れたように声を出した。
「パスポート持ってないし」
(多分…)と私は心の中で付け加えた。まだ白石透の体になってから、何度も母親に阻止され、海外旅行のチャンスを逃している。パスポートがあるかどうかさえ定かではないが、問題はそこではない。
「今、ちょっと忙しいの」
それからまたスマホに目を移した。
バレンタインデーが近いということは、まどかの誕生日も近いということだ。来月にはアメリカに行ってしまう妹のために、盛大な誕生日会を開いてあげたい。それで自分でも作れるデコレーションケーキを調べているが、中々いいのが見つからず困っていた。
「なんだよ、盛り下げてくれやがって…」
榊が小さく舌打ちをした。
「私抜きで行けばいいじゃない」
「お前が行かないなら、未央だって…」
そこまで言いかけて榊は口をつぐんだ。
「は~ん。なるほど、そういうことね~」
私がにやりと笑うと、そこに五十嵐が追いうちをかける。
「なんだ~。片想い相手と甘~い思い出を作りたかっただけですか~」
「俺たちはおまけですか~」蓮見がそれに便乗する。
「ずいぶんと遠回りだな」天城はため息を吐いている。
「う、うるせえ!」
顔を真っ赤にして榊が立ち上がった。
「お前らなんか…!」
「はいはい。からかってごめんね。私は、まどかの誕生日会を開きたくて…」
そこではたと蓮見と目が合った。脳内が素早く回転を始める。
(ふふ。いいこと思いついちゃった)
「白石ちゃんが悪い顔してる!」
蓮見が叫んだ。
「その顔、人前でするのは止めた方がいいよ」
真剣な顔で五十嵐が言った。
「不気味だから」