悲劇のフランス人形は屈しない3
目覚め
どこからか音楽が聞こえて来る。軽快なギターの音に、自分はまだ中間の世界にいるのかと思った。
(記憶、まだある…)
中間の世界で、本物の白石透と出会い、人生を本気で交換することになった。不思議な体験。今ではもう夢の中の出来事のような気さえしてくる。少しずつ白石透との会話が消えかかるのと同時に、段々と意識が戻って来た。
時々止まっては、また鳴りだすギター音の隙間から、ピッピッと規則正しい機械音が聞こえてきた。病院のベッドに寝かされていると分かるのに時間はそこまでかからなかった。ところどころメロディーの音を外しながら「あれ、おかしいな」と声がする。
瞼が重くて開けられない。私は少し舌を出し、乾いた唇をなめると、カラカラの喉から声を絞りだした。
「榊、うるさい…」
ギターの音が一瞬で止んだ。部屋がしんと静まり返った。
「と、透…?今、何か言ったか?」
それから別の方向へ向かって声をかけた。
「おい!今、透が喋ったよな!?」
人が動く気配がした。
「マジかよ?お前、先週もそんなこと言ってたぞ」
蓮見の声がした。
「本当だって!俺の名前を呼んだんだって!」
「なんで、白石ちゃんが真っ先にお前を呼ぶんだよ!呼ぶなら俺だろ!」
バシッと音がして蓮見が榊を殴ったのが分かった。
(なんでや…)
良く分からない言い争いに物申したいが、体が鉛のように重くて指一本動かせない。
「俺の勘違いか~?」
榊がベッドサイドの椅子にまた腰を掛ける音がした。
「俺のギターが上手すぎて、起きたのかと思ったぜ」
「アホか」
蓮見がそう突っ込んだ時、また何とも言えないギター演奏が始まった。音は外すし、メロディーは所々止まるしで、聞くに堪えない。
これを黙って聞いている蓮見が凄い。
「…うるさい」
私は力を振り絞り、また声を出した。少し声を出すだけで、全身の力が抜ける。
「と、透?」
演奏する手を止めて榊が言った。
「おい、またか…」
呆れたように言う蓮見を制したのか、部屋が静かになった。榊が私の顔に近づいた。
「透?意識が戻ったのか?もしそうなら、頷いて」
部屋が緊張感で包まれるのが分かった。
私は力が戻って来るのを待ってから、小さく頷いた。
「ほら!ほらな!やっぱり!」
榊がその場から立ち上がった。その勢いで、ギターが盛大な音を立てて床に落ちた。
「え!白石ちゃん、本当に!?」
「俺、先生呼んでくるわ!」
「あ、待て。俺も行く!」
二人の足音が聞こえなくなると、私はまた眠りに落ちた。
この時すでに、白石透と中間の世界で出会った記憶は全て消えてなくなっていた。
(記憶、まだある…)
中間の世界で、本物の白石透と出会い、人生を本気で交換することになった。不思議な体験。今ではもう夢の中の出来事のような気さえしてくる。少しずつ白石透との会話が消えかかるのと同時に、段々と意識が戻って来た。
時々止まっては、また鳴りだすギター音の隙間から、ピッピッと規則正しい機械音が聞こえてきた。病院のベッドに寝かされていると分かるのに時間はそこまでかからなかった。ところどころメロディーの音を外しながら「あれ、おかしいな」と声がする。
瞼が重くて開けられない。私は少し舌を出し、乾いた唇をなめると、カラカラの喉から声を絞りだした。
「榊、うるさい…」
ギターの音が一瞬で止んだ。部屋がしんと静まり返った。
「と、透…?今、何か言ったか?」
それから別の方向へ向かって声をかけた。
「おい!今、透が喋ったよな!?」
人が動く気配がした。
「マジかよ?お前、先週もそんなこと言ってたぞ」
蓮見の声がした。
「本当だって!俺の名前を呼んだんだって!」
「なんで、白石ちゃんが真っ先にお前を呼ぶんだよ!呼ぶなら俺だろ!」
バシッと音がして蓮見が榊を殴ったのが分かった。
(なんでや…)
良く分からない言い争いに物申したいが、体が鉛のように重くて指一本動かせない。
「俺の勘違いか~?」
榊がベッドサイドの椅子にまた腰を掛ける音がした。
「俺のギターが上手すぎて、起きたのかと思ったぜ」
「アホか」
蓮見がそう突っ込んだ時、また何とも言えないギター演奏が始まった。音は外すし、メロディーは所々止まるしで、聞くに堪えない。
これを黙って聞いている蓮見が凄い。
「…うるさい」
私は力を振り絞り、また声を出した。少し声を出すだけで、全身の力が抜ける。
「と、透?」
演奏する手を止めて榊が言った。
「おい、またか…」
呆れたように言う蓮見を制したのか、部屋が静かになった。榊が私の顔に近づいた。
「透?意識が戻ったのか?もしそうなら、頷いて」
部屋が緊張感で包まれるのが分かった。
私は力が戻って来るのを待ってから、小さく頷いた。
「ほら!ほらな!やっぱり!」
榊がその場から立ち上がった。その勢いで、ギターが盛大な音を立てて床に落ちた。
「え!白石ちゃん、本当に!?」
「俺、先生呼んでくるわ!」
「あ、待て。俺も行く!」
二人の足音が聞こえなくなると、私はまた眠りに落ちた。
この時すでに、白石透と中間の世界で出会った記憶は全て消えてなくなっていた。