好きを君に。

「でも未練残したまま卒業して藤崎に彼女でもできてもしらないよ」

む。
それは、嫌だけど…。

藤崎に、カノジョ。
だれかが藤崎の横にいて、藤崎が赤くなっているのを想像したら少し笑えた。

「能天気」

心の声を読んだのかずばっと切りつけられる。

「そういえば、バレンタインはなんでチョコ渡さなかったの?」
「え、」
何気なく思い出したように聞かれ、あたしは固まった。
「遥、用意してたよね? チョコ」

……そうなのだ。
バレンタインにチョコ自体は用意してたのだけど。

チョコレートを渡す、なんて義理だと説明するにしても恥ずかして出来なかった。
だって渡した時点で気持ちに気づかれてしまうかもしれないし。

「渡されても気付かないでしょ。鈍感だし、藤崎」
「心の声読まないでよ!」
何も話してないのに心の中を読む千香に抗議の声を上げるが千香は気にした様子もない。
「桐野には渡してなかった?」
「あー、うん。友達に渡す流れで、つい」
クラスの何人かの女子とバレンタインのチョコを交換した時に、桐野がたまたま近くにいて、余っていたからひとつあげた。
「その流れで渡せばよかったのに」
「藤崎、いなかったからそのとき」
もし、桐野と一緒に藤崎がいればさりげなく渡せたな、と思うけど、その時はいなかった。

結局、チョコを渡す勇気がないまま、ラッピングしたチョコレートは持ち帰って自分で食べたのだ。

「でも、藤崎と手繋いだりとか、好き好きって言い合うのとかって想像できないし、なんか恥ずかしくなるっていうか。だからきっと、今のままの関係がいいかなって」
「あんたがいいならいいけどね」
自分の主張を押し付けずに淡々と現実を突きつけるタイプの千香は、言いたいことをいうとあっさりと引く。
告白するために協力するよ!みたいなタイプでもない。
ちなみにあたしが千香に藤崎を好きだと言ったことはなく、いつの間にか気付いていて、指摘されてしどろもどろになり、バレてしまった。

「うん。ありがとね。心配してくれて」
「心配っていうか、こっちに被害くると面倒だなって思って。卒業してやっぱり告白すればよかったかな? とかグチグチいわれると」
「ーー言わないよ」

今決めた。
千香の前では絶対に言わない!

「それならいいけどね」
千香はあっさりとそういうと、それじゃ。と手を上げて自分の家の方向へ行く。
気付けば分かれ道にさしかかっていたらしい。
「じゃあね」
あたしも手を上げて、千香と分かれた。

< 11 / 79 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop