好きを君に。
『……まあ、いったげてもいいよ』
「え!?」
予想外の千香の言葉にあたしはびっくりして目を見開いた。
「ほ、ほんと!?」
『直前でどうにかなるような学力でもないし。ただし』
弾んだ声に被さるようにつけられた条件に、うっ。と身構える。
『ハーゲンダッツね』
「ハーゲンダッツ…」
『それくらいのお礼なら安いもんでしょ。対価がないとね』

ーー千香がなんの利益もなしに、OKなんてしはいよね。

わかっていても。
わかっていても、思う。

少しくらい、友達のために協力してくれたっていいじゃん。

『受験直前の時間使ってるんだから、そのくらいの利益はあってもいいでしょう』
「電話なのに心の声読まないでよ!」
『大きい声出さないで。うるさい』

うっ。結局いつもの繰り返しだ。
千香のこういうところ、嫌い。

でも、千香が行ってくれるってことは、藤崎と出かけられるってことだ。
クラス行事の打ち上げ以外で藤崎と会うなんて初めてだ。

「とりあえず藤崎に行くって連絡してもいいってことだよね?」
『そんな長居はしないけどね』
「それはわかってます……」
『それじゃ。また時間と場所連絡して』
それだけいうと余韻もなく電話は切られる。

用件だけ聞いてさっさと切るところも千香らしい。

電話が終わるとジワジワと実感が湧いてきて、心が踊る。

まさか、藤崎から誘われるなんて夢みたいだ。
嬉しい。

あたしはまた何度もメッセージの返信を打ったり消したりしながら、藤崎に行くことを伝えたのだった。


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