好きを君に。



日曜日。

まだ肌寒さの残る、春に近い冬。
マフラーに顔を埋めて、冷たくなった手をこすりあわせる。

やっぱり少し、早かったかも。
スマホを見ると、待ち合わせの20分前。
家にいても落ち着かなくて、予定より早く家を出た。
早くついたら単語でも覚えようかと思ったけれど、単語を見てても頭に入ってこないし。

地元の有名でもない神社なので、人はまばらで、学生らしき人はいなかった。


受験生が、こんな直前に来ないか。
考えたらそうだよね。お母さんも、え?どこか行くの?って怪訝な顔してたし。


「……たかさかー!」

だれかがあたしを呼ぶ声が聞こえて、その声に視線を向ける。
向こうから走ってくるのは、たぶん、桐野かな?

桐野はあたしの前まで来ると、膝を折って息を整えた。
額に浮かぶ汗に、そんな走らなくてもよかったんじゃ…?と思う。
だって待ち合わせにはまだまだ時間があるし、あたししかいない。

「よっ。早いな」

息を整えた桐野は顔を上げると、爽やかな笑顔をあたしに浮かべた。
藤崎と仲のいい桐野は、あたしとはそこまでたくさん話したことがあるわけではない。

「やっぱり少し、早かったかな?」
「いんじゃない? 遅刻するよりかは」
さりげなくフォローした桐野は、あたしの隣に並んだ。
桐野は藤崎よりたぶん5cm以上は高いから、少し顔を上げて話すので新鮮だ。 


桐野は、女子に結構人気がある。
猫っ毛の黒髪と切れ長の瞳。
話し方も見た目も穏やかで優しい感じなのに、
サッカー部のエースで、サッカーをしている時は全員に指示する頼れるキャプテンなのだ。
だから、そのギャップに惚れてる女子も多い。


「桐野、高校どこ志望だっけ?」

会話がなかったので、とりあえず無難な線に行くと、桐野は呆れた顔をした。

「俺、高坂と一緒なんだけど」
「あ、そういえばそんなこといってたね」

たしかになにかの話のついでにそんなことを聞いたような気もした。

そっか、同じ高校受けるのか。
なんか、意外だな。

桐野は頭いいイメージあるから、もっと難関高校を受けるのかと思ってた。
運動神経もいいし、推薦とか。

「じゃあ、勉強は余裕だよね」
「んー、余裕ではないけど、たぶん大丈夫って感じかな?」

いいなー。
桐野も千香もあたしより頭がいいし、直前で焦るような段階では無いのだ。

あたしはちょっぴり……心配なレベルだけど。

「桐野は家から近いから東高にしたの?」
「そうだよ。高坂もだろ?」
「うん」
「そういえば、悠哉は北高志望だしめっちゃ遠いな」
藤崎の話題になって、胸がずくん、と痛む。
あたしはごまかすように笑って、そうらしいね。と返した。
「なんで藤崎、そんな遠いとこ受けるんだろ?」
「さあ? サッカー強いって言ってたけど、たぶん別の理由だな」
「え? そうなの?」
「たぶんだけど」
桐野がなんでそう思うのか知りたかったけど、あまり聞きすぎると気持ちがバレる気がしてそれ以上聞けなかった。



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