好きを君に。
「あ、悠哉」
そして話題になっていた人が向こうから見えると、あたしの心臓はまたどきん、どきんと速く脈打つ。
桐野を見た時には感じなかったこと。
それは、藤崎の姿だけが輝いて見えるってこと。
周りの景色が藤崎に合わせるように、明暗を変えているみたいだ。
もちろんそんなのは、あたししかみえていないだろうけれど。
制服じゃない、私服で会う藤崎。
今までだって打ち上げとかで何回か見ているのに、こんな風に少人数で会うなんて、新鮮で、少しだけ恥ずかしくて。
少しだけ、うれしい。
「よお」
近づいてきた藤崎は桐野に向かってそう言うと、あたしを上から下まで順に見ていく。
そんなまじまじと私服を見られると思わなくて、思わず自分の私服をあたしもみてしまう。
グレーのガウチョパンツに、白のニットを着て、チェックのマフラー巻いてるだけだし。
そんなおかしな格好してないと思うんだけど。
ダサい、とは思われず、かつ気合い入ってるじゃんと思われないように考えまくって着てきた服。
「……お前、女みたい」
ようやく発された言葉は、耳を疑うものだった。
待て。
なんだ、その言葉は。
「それは、どういう意味?」
できるだけ温和に、笑みを保って聞いた。
「なんか、気持ち悪いなって思って」
「はあ?」
藤崎の無神経な言葉に、語尾が上がって顔が歪むのが自分でもわかった。
人の服装見て、気持ち悪いだあ?
さっきまでのどきどきはどこへやら。
風に乗って飛んでったみたいに、消えていた。
「悠哉、言葉が悪すぎる」
さすがの藤崎の物言いを、桐野がとがめてくれる。
「桐野、もっといってやって!」
「俺は事実いってるだけだし」
「いっとくけど、あんただって不審者みたいな格好してるからね!」
「は!? これのどこが不審者なんだよ!」
あたしの物言いに藤崎が語調を強める。
ちなみに藤崎は、ニット帽、ジーンズ、シャツの上にジャケットを着ているが、ジャケットは迷彩柄でそれ以外は黒一色である。
「全体的によ! 顔だけ見たらただのまぬけづらだけど」
「お前に言われたくない!」
いつもの言い合いに、桐野はまた始まったなと傍観モードに入る。
それを気にすることもなく、あたしたちは静かに睨み合った。