好きを君に。
「俺、結んでくるわ」
それでもショックは残っているらしく、おみくじがたくさん結んである木へ向かう藤崎に、「あ、まって。藤崎」と千香が声をかける。
「ん?」
「凶がでたら、利き手と反対の手で結ぶといいんだって」
「なにそれ」
「利き手じゃない手で結ぶと、困難なことを達成したことになって、凶が吉になるっておばあちゃんがいってた」
「え? 初めて知ったわ」
「気休めかもだけどね」
「挑戦するわ! サンキュ!」
顔を輝かした藤崎は満面の笑みを浮かべて、木へとまた向かう。

無邪気な笑顔に勝手にキュンと胸がなる。
あたしに向けられた笑顔でもないのに。
ちょっとかわいいなんて思うあたしはやばい。

木へと向かった藤崎は左手で一生懸命結ぼうとしていたが、やっぱり利き手じゃないせいかうまくいかない。
そもそもおみくじって片手で結んだことないや。

「あれは時間かかるな」
桐野も眺めながら、負けず嫌いだし、と付け加える。
「それより如月って物知りなんだな」
「おばあちゃんがそういうのよくいうの。何回もいうし覚えちゃったわ」
「あたしも初めて聞いたー。凶今まで出たことないけど」
「俺もないな。わざわざ今日ひくあたり、あいつもってるよな」
「ほんとにね」
三人で和やかに会話していると、藤崎が戻ってくる。
どうやら無事に結び終えたらしい。
顔には疲労の色が浮かんでいた。

「お疲れ。思ったより早かったな」
「こんなに頑張ったんだから大丈夫だろ」
桐野の労いに、藤崎は息を吐く。

「んじゃ、帰るか」
スマホを確認した藤崎の言葉に、あたしたちは顔を見合せて頷いた。
鳥居からでたときに、千香があ、と声を漏らす。
「私、そこの花屋に寄って帰る。お母さん、今日誕生日なんだよね」

神社の斜め向かいには、オシャレな今風の花屋さんがあった。
色とりどりの花が歩道側に顔を向けている。

「そうなんだ! おめでとうー!」
千香のお母さんは顔見知りなので、思わず拍手していう。
「私じゃないけどね」
肩をすくめる千香の反応は予想通りだ。

「じゃああたしもちょっとみてくー」
「別にいいのに」
「いいのいいの」
あたしがそういったことで、藤崎と桐野もなんとなくついてきて、結局4人で花屋へ向かった。



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