好きを君に。
花を軽く目で見て、店員さんに話しかけに行った千香を横目に、あたしは店先に並んでいる花をみる。
チューリップ、ミモザ、スイートピー……綺麗に咲きほこる花には、それぞれ花言葉が書いてあった。
花言葉をみながら、買い物をする人が多いのかな。
ふと、ピンクや赤のバラに目が止まる。
「え。バラって本数によって意味変わるんだ」
さりげなく目に止まった花言葉の横に、大事な人に贈り物はいかがですか? というポップが貼ってあり、それぞれの本数によってどんな意味があるのか書かれていた。
「女ってこういうの好きだよな」
思わず意味を目で追っていたあたしの横からのぞきこんできた藤崎にそういわれて、その距離の近さにびっくりして危うく声が出そうだった。
……急に現れないでほしい!!
心の準備ができない。
「藤崎はこういうの絶対やらなさそうだよね。ロマンチックなのできなさそう」
動揺を誤魔化すためにそんなことをいってしまい、藤崎の顔がしかめっ面になる。
「うるせえな!」
「俺の母さん、プロポーズの時に108本もらったっていってたよ」
あたしと藤崎に桐野の声が割って入る。
108本は結婚してくださいという意味だとポップに書いてあった。
「え?そうなの? 素敵」
「高坂でもそういうの好きなんだな」
「あんたはうるさい!」
ここぞとばかりに余計な一言をいう藤崎にかみつくと、桐野が苦笑しながら「でも重さは3キロくらいあるみたいで、持って帰るのが大変だったっていってた」と付け足した。
そっかー。バラが108本もあればたしかに大きいだろうし、ずっしりと重そう。
「お待たせ」
小さなブーケをもった千香が戻ってきて、あたしたちの会話は終わる。
「えーと、千香とあたしは方向違うからバイバイだけど、桐野と藤崎は?」
「俺らも別々だよ。俺、あっち」
「じゃあ私と一緒ね」
藤崎が指さした方向はあたしとは真逆で、千香と一緒だ。
来る時もあっちから来たのだから、もちろんあたしと一緒ではないことはわかっていた。
「じゃあ俺と高坂が一緒かな?」
「そうだね」
桐野が指さした方向はたしかに、あたしが来た道だ。
あたしたちはじゃあねーとお互い言い合って、家への道を歩き出す。