好きを君に。


翌日。

学校の行き道で千香を見つけたあたしは声をかけた。
千香はいつもと変わらない。

「そういえば千香は、昨日、藤崎と何を話したの?」

ごにょごにょしながら聞いたあたしに、千香は気にした様子もなく、ああ、といった。

「たいしたこと話してないよ。すぐ分かれたし」
「あ、そうなんだ」
ほっと胸を撫で下ろす。
なにもないだろうとは思っていても、気になってしまう。
でもズバズバいう千香が一瞬逡巡して、「遥さ」とあたしの名前を呼ぶ。
「なに?」
それは、なにか嫌な予感を予兆しているようで。

「告白、することにした?」

どくんどくんと、鼓動がはやくなる。
あたしは目を彷徨わせながら、声を潜めて、まだ決めてないといった。

「そっか。もし付き合いたいなら、告白、やめといたほうがいいんじゃないかと思って」
嫌な冷や汗が背中を伝う。

それはつまり、告白しても報われない、ということ?

なんで、千香がそんなことをいったのかわからなかった。
だって千香はこうしたら? ということはあっても、恋路に首をつっこみたがること、基本的にしない。

「きついこというけどさ、藤崎、まだあんたのこと恋愛対象としてみてないよ」

淡々と疑問に答えるようにいわれたその言葉は、一瞬で目の前を真っ暗にさせる。

「……ごめん。受験前に言うべきじゃなかった」
あたしの顔を見て、千香は後悔したらしく、額に手を当てていた。
「ううん。そんなこと、わかってたよ」
ぎこちなく笑いながら、あたしは頷く。


うそだ。
本当は、あたしはどこかで期待してた。

藤崎が、あたしと同じ気持ちを抱いていること。
抱いているこの気持ちに応えてくれること。

でも。
千香があたしにこういうってことは、藤崎の気持ちを確信する出来事がなにかあったんだ。

それって何?
……もしかして千香に告白でもした?


「あ、断っとくけど告白とかされたわけじゃないから」
誤解しそうだったあたしの疑問にかぶせるように、千香がはっきりいう。
相変わらず心の声を読んでくる。

「……まあ、実際は藤崎の心は藤崎しかわからないから、わからないんだけどね」
フォローのような千香の言葉は、あたしを気遣ってくれたからだとわかるけど、それが余計に心をズキズキさせて、あたしは曖昧に笑うしかなかった。


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