好きを君に。
その日の授業は身が入らなかった。
千香がいった言葉がぐるぐる回っていて、頭がボーとしていた。
『きついこというけどさ、藤崎、まだあんたのこと恋愛対象としてみてないよ』
恋愛、対象。
藤崎があたしをそんな風に、見ていない。
そんなことわかってた。
わかっていた、はずなのに。
そうだろうな、がそうだ。に変わると、こんなにも心が痛くてぽっかり穴が開いたような気持ちになるのか。
「おい。どうかしたのか?」
「ひゃっ」
急に藤崎の顔がぬっと目の前に現れて、小さく悲鳴が漏れる。
後ろに仰け反ったせいで、ガタンと後ろの机に椅子の背があたる。
「人の顔みて悲鳴あげるとか失礼だぞ」
「急に現れるからびっくりして」
「何回も呼んだわ!」
「え、あ、ごめん」
ぼーとしていて気づかなかった。
えーと、そうだ。あたし、先生に呼ばれた千香を待ってたんだ。
「とうとう壊れたか?」
「は?」
「受験勉強のしすぎで頭おかしくなったかっていってんの」
「そんなことあるわけないでしょ」
いつもみたいに喧嘩する気力も湧かなかったあたしに、藤崎は拍子抜けした顔をした。
「お前、変だぞ」
藤崎があたしの顔をのぞきこんできて、どきんと心臓の音がした。
同時に千香の言葉を思い出して、ずきずき胸が苦しくなる。
「ちょっと顔も赤いか?」
それはあんたが近すぎるからだ。
そういいたかったけど、言葉は出なくて。
「その子、風邪気味だから近づくとうつるかもよ」
あたしたちの間に割って入ったのは、千香の声だった。
藤崎も声の方を見て、あたしを指さす。
「こいつ、風邪なの?」
「たぶんね。だからいつも以上にボケてるでしょ」
「失礼な!」
いつも以上にボケてるはだいぶ聞き捨てならない。
あーなんか頭も痛くなってきた。