好きを君に。
「早く帰るよ、遥」
ささっと自分のカバンをもった千香にいわれて、あたしも慌ててカバンをとる。
「今日はちゃんと早く寝ろよ。受験までに熱出したらやばいぞ」
藤崎の横をすりぬけようとしたあたしの耳に、藤崎の声が届いて胸にしみわたる。
「わかってる。じゃあね」
そしてまたあたしは、可愛くない返答しかできない。
藤崎は、たぶん心配してくれたのに。
そのまま千香と二人で廊下に出て歩いていると自然とため息が漏れた。
「あんたわかりやすすぎ」
「う。ごめん」
教室から出てしばらくしたところで、呆れたように千香にいわれて縮こまる。
なにを指していわれているのかわかりやすすぎるくらいわかっていて、なにも反論できない。
「……そうなることわかるのに、いっちゃった私も悪いけど。明日までに切り替えなよ」
「……頑張ります」
自信はないけど言葉だけでもやる気を見せると、千香があたしをじっと見つめた。
「ほんとにちょっと顔色悪い?」
「え? そう?」
「明後日試験なのに熱なんてだしたら大変だし、早く帰って休みな」
「う、うん」
たしかにいわれてみれば頭も痛いし、喉も痛いような……。
さすがに試験当日に体調不良は避けたい。
「遥って肝心な時体調崩しやすいからね」
「うっ。そんな不吉なこといわないで」
思い返せば準主役くらいで出るときの保育園のお遊戯会とか、部活の試合の前日とか体調崩したりしてたけど!
千香の言葉がまるで呪いだったように、夜になるにつれてあたしの体調は悪化していった。
翌日に治ることを祈りながら、あたしは眠りについたのだった。