好きを君に。

目を覚ましたのはドアを叩くノック音だった。

「遥、入るよ」
お母さんの声が聞こえて、ドアを開ける音がする。

あたし、いつのまにか眠ってたのか……。

目を開けて、身体を起こすとさっきより身体はだいぶ楽だった。

「寝てていいよ」
「……うん」
あたしはゆっくりまたベットに身体を戻すと、ふうと息をはく。
「飲み物置いておくから。水分補給しなよ」
たぶんお母さんが買ってきてくれたんだろうスポーツドリンクがベットの横に置かれた。
「うん。ありがとう」
「あと体温計」
差し出された体温計で体温を測ると、37度代になっていた。
「薬効いたかな? 微熱になってるけど、無理しないで寝とくのよ」
「はあい」
それだけいうと、お母さんはまた部屋を出ていった。

たしかに薬が効いたのか、身体はだいぶ楽になっていた。
これならちょっとくらい勉強できるかも?
ベットで暗記モノをするくらいならいいだろうと、カバンから暗記ノートをとってくる。

あたしは、社会が大の苦手だ。
特に歴史。
なぜなら全く興味がないから。

でもテストに歴史が出ないなんてことはありえないし、さすがに捨てるわけにもいかない。
だから、よく間違えるところを中心に暗記ノートを自分で作って、読み込むようにしていた。
……作って自己満足してなかなか取り組めなかったところもあるけど。

直前だし、がんばれあたし。

自分を鼓舞しながら、「勘合貿易……応仁の乱……」とあたしは一人でぶつぶつつぶやく。

いつも思うけど、我ながら結構不気味な光景なはずだ。
でも、声に出すほうが、あたしは結構覚えられる。

頭が痛くなってきた頃、また部屋にノック音が響いた。

「遥、起きてる?」
「起きてるよ」
お母さんが扉の向こうで声をかけてきて、あたしは暗記ノートを閉じた。
少しだけドアを開けてお母さんが顔をのぞかせる。

「千香ちゃんと、男の子の友達が、お見舞い来てくれたよ」

千香と……男の友達?
え、だれ?

心当たりがなくて混乱する。

「でも風邪移しちゃいけないし、扉越しに少し話すだけでいいよね?」
「あ、うん」
「じゃあ連れてくるね」
男友達ってだれ、と聞きたかったけど、お母さんはさっさと扉を閉めて去っていった。

もしかして、の気持ちが胸を弾ませる。

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