好きを君に。

コンコン、とノック音が聞こえて、「遥、私」と千香の声がする。
「あ、はい。わざわざ来てくれたのに、ごめんね」
あたしは扉に近づいて声が聞こえるように少し大きめにいう。
「予想通りすぎてさすが遥って感じ」
「うるさいな」
「今日もらったプリントはおばさんに渡しといたから」
「ありがとう」
「明日受験行けそうなの?」
「たぶん。インフルエンザじゃないみたいだし、熱も下がってきてる」
「そう。よかったね。あ、お見舞いいくっていったら藤崎と桐野もついてきた」
「おまけみたいにいうなよ!」
男友達、が誰を指しているかがわかって、どきんどきんと胸が途端にうるさくなる。

藤崎が、ドアを開けたらそこにいる。
あたしの家に。
あたしのためにお見舞いに、きてくれてる。

「合格祈願、誘ったの俺らだし、もしあのときだったら申し訳ないと思って」
桐野がそういって、あたしは見えもしないのに首を振った。
「関係ないよ。あたしの自己管理の問題だし」
「凶ひいた俺をバカにするからだな」
「バカにはしてないでしょ!」
「……なーんだ。元気そうじゃん。わざわざ来ることなかったな」

それはまるで、ちゃんと心配してくれてきたみたいに感じて。
あたしはただ顔がほころぶ。

「とりあえず今日は寝て明日までに万全にしなよ」
「うん」
「じゃあ帰るわ」
名残惜しげもなく告げられた帰る、はもちろん引き止めることなんてできなかった。

だって千香も桐野も藤崎も、明日受験なのに。
わざわざあたしのお見舞いに来てくれたんだから。

「わざわざ来てくれてありがとね。桐野も、藤崎も」
「じゃあまた明日な、高坂」
「腹出して寝るなよ」
「寝ないし!」
最後まで余計なことを言う藤崎に噛みつきながら、あたしは三人の足音がなくなるまで耳をドアにつけていた。

足音が消えると、一気に寂しくなる。
寂しいとか言っている場合ではないのも分かっているけれど。

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