好きを君に。

そのとき。
またパタパタと廊下を歩く足音が聞こえた。

……お母さんかな?

思わずドアを開けて、廊下をのぞく。
その瞬間。

ーーーー!?

藤崎とばっちり目が合ってしまい、あたしは慌ててドアを閉じてしまった。

え!?
藤崎なんで!?
なんで戻ってきたの!?

汗かいてるし、ヨレヨレのパジャマだし、髪はボサボサだし、こんなんみられたくなかったんだけど!!

「高坂」
藤崎の声がドアの向こうから聞こえる。
まだ心臓のどきどきがおさまらない。
「ど、どうしたの」
「ちょっとだけドア開けて。手だけだして」
「……え? なんで?」
「いいから」
「なんか虫のおもちゃとか渡さないよね?」
「あのなあ、俺のことなんだと思ってんだよ! この状況でそんなことするわけないだろ」
動揺を隠すためとはいえ、我ながらほんとに可愛くないなと思いつつ。
あたしはそっとドアを開けて、手だけを藤崎のほうにだした。
その手に、一瞬だけ藤崎の手が重なって、なにかが乗る。

初めて触れた藤崎の手は熱くて。
少ししか触れてないのに、なんにも考えられなくなるくらい頭が真っ白になった。

そっと部屋の中に手を戻すと、あたしはまたドアを閉じた。
握りしめた手を広げると、そこにはこないだ合格祈願した神社のお守りがあった。

「これ……」
「それ、こないだの神社で買っといた。合格祈願のお守りなんてもってるかもしれないけど」
「なんであたしに……?」
「きりと如月の分も買ったのに、高坂の分だけ買わないとかないだろ」
当たり前のようにいわれたその言葉に、涙が出そうになる。

……どうしよう。
嬉しすぎて死んじゃいそう。

「ありがとう。すごく、嬉しい」
感情がそのまま素直に出てしまったあたしに、ドアの向こうがシンと静まり返る。

「素直にお礼いわれると調子狂うわ」
藤崎がまだいるのか不安になっていた頃にそんなふうに呟かれる。
「あのね、お礼くらいいうわ、あたしだって」
「如月みたいにいらないって言われるかと思って」

……千香。
らしいっちゃらしいんだけど、それくらい受け取ってあげたらいいのに。

「お守り、もってなかったからよかったよ」

うそだ。
本当はお母さんが買ってくれたお守りがある。

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