好きを君に。

「……ならよかったわ。ま、明日落ちないように頑張れよ」
「あんたにいわれたくないけどね」
「受験前に風邪ひくやつに、俺もいわれたくない」
「たまたまだし」
「最悪のたまたまだな」
「うるさいな」
いつもの言い合いを扉越しにするなんて変な感じだ。

「じゃあ俺、帰るわ。あいつら待たせてるし」
「うん。ありがとう」
「明日、頑張れよ」
「あんたもね」
「じゃあな」
「あ、あの!藤崎」
「なに?」
終わりが来てしまうことが名残惜しくて、つい引き止めてしまう。
でも思わず名前を呼んでしまっただけで、なにをいえばいいのかわからない。
「……今日、今日はわざわざありがとう」
「言い合う相手がいなくてひまだったからな」
「あたしはひまつぶしの相手か」
「ま、そんな感じ」
ケラケラ笑う藤崎に、あたしも思わずつられて笑ってしまう。

「それじゃな」
「う、うん。ばいばい」
もう本当に引き止める理由もなくなって、そのまま藤崎の足音が去っていく。

あたしはそのまま玄関が見える窓へ向かった。
窓の外を見ると、ちょうど三人がでていくのがみえる。

見つめていたあたしに、千香が気づいて手を上げてくれる。
それにあわせて桐野と藤崎もあたしをみてくれて、手をあげてくれた。
あたしも三人に手を振って、見えなくなったらベットに戻った。


手の中にあるお守りをぎゅっと握りしめる。

藤崎がくれたお守り。
それだけで、このお守りはあたしの宝物になる。


明日は絶対絶対これをもっていく。
力が湧いてきたあたしは、頑張るぞ!と気合を入れて、また暗記ノートを見始めた。

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