好きを君に。

受験

受験日。
公立高校一般入試日。

朝起きると、身体がすごく楽になっていて。
枕元に置いていた体温計で熱を測ると、平熱だった。
無事に試験が受けられそうで安堵する。

でも。
その日の朝は、いつもよりずっとずっと空気が重たい気がした。
きっと、あたしたち受験生だけが感じるなにか。

不安。
焦り。
緊張。

家でもこんな風に感じてしまうのだから、きっと学校とかはもっと空気が張り詰めているのだろうな。

食欲はなかったけど、朝ごはんもちゃんと食べた。
お腹減ると集中できないし。

「遥、大丈夫?」
朝ごはんを食べ終えたあたしに、お母さんが聞いてきたので、あたしは笑顔で大きく頷いた。
「うん。もう大丈夫!」
「そう。見送り行けないけど、頑張ってね」
「うん! お母さんも仕事頑張ってね」
「ありがとう。それじゃお母さん、先に行くね」
「いってらっしゃーい」
あたしはお母さんを見送って、食べた食器を流し台に置いた。

制服に着替えて、持ち物をもう一度確認。
受験票、お弁当、筆記用具、お茶、暗記ノート、時計。
そして、お母さんにもらったお守りと藤崎にもらったお守り。

うん。大丈夫。
なにも、忘れてない。
藤崎のお守りは……制服のポケットに入れておこう。

あたしは大きく深呼吸をして、カバンを背負い、家を出た。

空気が澄んでいる気がした。
今日は寒さはだいぶマシだって、天気予報のお姉さんが言ってたっけ。


待ち合わせ場所で千香と合流する。
「おはよう。千香」
「おはよ。あんた大丈夫?」
「うん。もう全然平気だよ」
一応心配はしてくれていたらしい。
「試験会場で倒られでもしたら、嫌だしね」
「……あー、そう」

千香ってそういうやつだよね。

あたしたちはバス停まで歩き出す。
あたしと千香の最寄りのバス停は違うけど、今日は中間地点で合流してバスで向かうことにした。


東高はあたしの家から一番近い高校で、徒歩でもいける距離だ。
徒歩っていっても、三十分はかかるけどね。
通学自体は自転車の予定だけど、今日は当然自転車はダメだからバスで行く。
< 33 / 79 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop