好きを君に。
「ついたから降りるよ」
「あ、うん」
気づけば東高近くのバス停についていた。
たくさん乗っていた制服姿の学生が降りていく。

流れるように降りていくと、東高に向かって歩いている制服姿の人がたくさんいる。
その波に乗って歩き出すと、また心臓がどっどっと尋常じゃない音をだす。

耳に直接響くかのような音のせいで、周りの音がよく聞こえなくなる。

……落ち着け。
落ち着こう。

そう思っても、あまり効果はなくて。
知らずのうちに制服のポケットを握りしめる。

東高について、受験の教室を確認。
学校順かつ名前順にクラスが分かれていて、千香とは別のクラスだった。
あたしは肩を落としたが、千香はもちろん気にした様子もなく、教室の前でじゃね。とあっさり去っていった。
あたしの受験する教室は隣で、中に入ると、緊張感が漂っていた。

机に向かって、最後の勉強をしている人。
友達同士で話している人。
筆記用具や受験票の準備をしている人。

東高の倍率は、今年は1.3。

確実に受かる人なんてこの場にいない。
誰かは落ちてしまうんだ。

……もう、自分の力を信じるしかないんだけど。

自分の席を確認して、腕時計をみる。
まだ、時間ある。

震える手で、漢字の暗記ノートを取りだして確認する。
けれど、やっぱり頭に入らない。

緊張感が抜けなくて、落ち着こうと何度も深呼吸しても変わらない。
制服のポケットを握りしめて、大丈夫、大丈夫。と自分に言い聞かす。

「おはよ、高坂」
声をかけられて、ハッと顔を上げると桐野だった。
自然と顔がほころんでしまう。
「あ、おはよう。場所、一緒なんだ」
「俺、一番前。如月と俺でちょうど切れたんだな」
「そうなんだ」
「さっき隣のクラスで如月みたけど、ぜんぜん緊張とかしてなさそうだったな」
「ああみえて、ちょっとはしてると思うよ」
「そりゃそうか」
「桐野も緊張してないように見えるよ」
苦笑しながらいう桐野だって全然緊張しているようにみえない。
「俺はそういう風にみせてるだけ。ほんとはめっちゃしてるよ」
あたしに爽やかな笑顔を見せる桐野に、少しだけ緊張が薄れた気がした。
「お互い、頑張ろうね」
「おう。春からもよろしくな」
「気が早いな」
くすくす笑うと、じゃあ、と桐野は手を上げると自分の席へ向かっていった。

……よし、もう少し頑張ろう。

あたしは気を取り直して、残り少ない時間の中で、最後の勉強をした。
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