好きを君に。
二人でそのままバス停を通り過ぎて歩く。

もし受かれば、春からここが通学路になる。
高校生の自分なんてまだ想像できないなあ。

「テストいけた?」
「結構できたような気がする」
「お、自信たっぷり」
「たっぷりってほどじゃないけど。桐野は?」
「俺もまあまあかな。理科は死んだかも」
腕組みをしながら天を仰ぐ桐野に、理科の出来は自信がないあたしは少し安堵する。
「あたしも理科自信ないな。英語は?」
「英語はリスニング以外はいけたかな?」
「リスニングあたしもダメだったー。他もあんまだけど」
「英作文は無理かも」
英作文の問題は、あなたと同じ高校に通いたいを書け、だった。
「あたし、I wantとhigh schoolしか書けなかったよ。部分点狙い」
「俺もそんな感じ」
お互いの答えを言い合いながら歩く帰り道は、受験が終わった解放感もあって心が穏やかだった。

気付けばほとんど帰ってきて、合格祈願の時に分かれた信号にもうつきそうだった。

「あのさ」
会話の途切れたときに、不意に桐野が大きめな声をだした。
「高坂、もう体調大丈夫?」
なんだか緊張しているような声色に、あたしは不思議に思いながら頷く。
「うん、もう平気だよ」
「じゃあさ、俺と少し時間潰さない?」
「……え?」
「公園で、缶ジュースでも買ってさ」

それは、合格祈願をしたあの日。
受験やだなあーとつぶやいたあたしに、桐野が見たことのない真剣な目であたしをみて、そう聞いた。
その時の目が、あたしをまた見つめている。
あのときは、さすがに風邪ひくよ、と断ったけど、今は。

「今日暖かいしさ。お疲れ会、どう?」

答えを窮したあたしに、いつもの爽やかな笑顔を浮かべながら付け足す。
少し迷ったけれど、断る理由も浮かばなくて、あたしはいいよ。と答えた。
< 37 / 79 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop