好きを君に。
とても長い、静寂が訪れたように感じた。

目の前にいる桐野の頬は夕焼けに負けないくらい紅くなっていた。
そしてたぶん、あたしの頬も同じくらい紅くなっている気がする。

「俺、高坂のことが好きなんだ」

静寂を破った桐野はもう一度、はっきりと繰り返す。
あたしが藤崎に言えない言葉をいとも簡単に。

「……あ、ありがとう」

ようやくそれだけを絞り出した後に、あたしの口からは続けて「でも、なんで?」とかすれてでる。

「高坂は覚えてる? 俺らが二年の運動会で、俺がリレーのアンカーだったこと」
「……うん」
あたしと桐野はそのときも、同じクラスだった。
「一位だったのに陸上部のやつに負けた。すげー悔しくて情けなくて。みんな俺を責めなかったし励ましてくれたけど、どっかであいつが勝てればってみんなが落胆してた」

リレーのことは、よく覚えてる。
大きな歓声の中、走る桐野と追いかける第二走者の距離は徐々に縮まって、最終的には桐野が負けてしまった。
それまで一位で勝っていたはずのうちのチームは明らかに盛り下がり、残念な空気が漂っていた。

「あのとき、高坂が俺になんて言ったか、覚えてる?」
あたしは静かに首を振った。
あんまり覚えてないけど、桐野が周りよりも明らかに悔しがってたし落ち込んでたから、みんなは励ましの言葉をかけていた。
「高坂はさ、俺に、励ましの言葉とかじゃなくて、さっきの騎馬戦、かっこよかったねっていったんだ」

……いわれればたしかに、そんな言葉をかけたかもしれない。
どんまい、とか、頑張ってたよ、とか落ち込んでる桐野にいえなかった気がする。

「正直、そのときはなんでいま? て思ったけど、後からあれは高坂なりの気遣いだったのかなって考えたら、なんかグッときた」
小さく笑って、拳を胸にあてる桐野に、あたしはどきどきと心臓の音が鳴り止まなかった。

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