好きを君に。
「高坂?」
自宅への道を歩き出すと、ふいに後ろから声をかけられて、どきんと心臓が跳ね上がる。

この声は。
大好きで、いつだって会いたい人で。
でも今は、会いたくない人。

肩越しに振り返ると、やっぱり藤崎がいた。
今日は全身黒じゃなくて、グレーのパーカーを着ていた。
藤崎も一人みたいだ。

「藤崎……」
自然と目線が落ちる。
あのことを聞いた日からどんな風に話せばいいのかわからない。
「一人?」
「うん。藤崎も?」
「おう。イオンからの帰り」
「あたしも」
そのまま流れで二人で歩き出してしまう。

いつもだったら嬉しいのに。
今はなんだか、苦しい。

「イオン、なんか用事?」
「ああ、千香の誕生日プレゼント」
「如月誕生日なんだ?」
「来週ね」
なんとなくぎこちない会話をしてしまう。

あたし、上手く笑えてる?

「藤崎はなんでイオンにいたの?」
「時間つぶし。あと漫画の新刊買いたくて」
「へえ」
並んで歩いていて、ふと気づく。

藤崎って背、こんな高かったっけ?

「背、伸びた?」
「やっぱり!?」
何気なく聞くと、藤崎のテンションが上がる。
満面の笑みに、どきんと胸が鳴る。
「最近成長痛?みたいなん感じててさ、身体測定ないからわかんないんだけど、伸びてる気がするんだよ!」
「まだほかの男子より低いけどね」
「高坂はチビのままじゃん」
「ちょっと伸びました!」
「何センチ?」
「……一センチ、くらい」
「誤差じゃん」
はっとせせら笑うようにいわれて、カチンとくる。
「うるさいな! 高校で伸びるし」
「もう伸びないだろ。女子は」
「そんなのわかんないし!」
いつもの言い合いになって内心ほっとする。
なんだ。普通に話せる。
「おーおー。じゃあ楽しみにしてるわ」
笑いながらいった藤崎に、また心が勝手に高校でも会えるのかと期待する。

「受験、微妙な出来だったんだって?」
「きりに聞いたのか。ボーダーラインくらいだな」
「おみくじ凶だったもんねえ」
「それをいうな!」
くすくす笑うと、藤崎がふんっと顔を背ける。
「お前こそ、ちゃんと受けられてよかったな」
「うん」
「受験前日に体調不良は笑えるけど」
「うるさいな!」
そう言って今度はあたしが顔を背ける。

なんだかその掛け合いすらも嬉しくて顔がにやけそうだった。
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