好きを君に。
「藤崎にとって、あたしはただの同級生、なんでしょ?」

嗚咽とともに口元をおさえる。
涙が零れ落ちるのを必死に堪えるために下唇を噛んだ。

泣かない。泣きたくない。

「桐野と付き合ってもなんとも思わない。その程度の、存在なんでしょ?」
「高坂! 落ち着け!」
藤崎があたしより大きな声でそう言ったけど、あたしは自分の暴走を止めることが出来なかった。

「だったらもうあたしにかまわないでよ!」

感情のおもむくままにぶつけて、荒い息遣いを繰り返す。


めちゃくちゃいってるのなんてわかってる。

だけど、つらい。
あたし、藤崎が好きだから。
気持ち隠すの、下手だから。

前みたいに、接することなんてできないよ。

藤崎は明らかに混乱していて固まっていた。
その時点で、ああ、やっぱり藤崎にとってあたしはただの言い合いする相手としかみてないんだって思った。
思っていること全部ぶちまけたはずなのに、あたしの心はすっきりするどころかただただ痛くて張り裂けそうだった。

藤崎の手を力をこめてふりはらう。

「……ごめん」

そんな現実を直視したくなくて、あたしは吐き捨てるようにそれだけをいって、地面を蹴った。

「おい! 高坂!!」
後ろで藤崎の声が聞こえたけど、あたしは止まらなかった。


ただただ、地面を駆ける。
走りながらあたしの瞳からは堪えていた涙が溢れ出す。


最低だ、あたし。
藤崎にとったらわけわかんないよ。
突然キレだすなんてやばいやつだし。

藤崎が困惑するのだって、当たり前だ。

でも。
でもさ、もう限界だった。

藤崎があたしに桐野をすすめてくることも。
避けている理由を問い詰められることも。

藤崎の言葉を簡単に交わせるほどあたしは大人じゃない。
上手に言葉を選ぶ頭の良さもあたしにはない。

でも、だからって。
あんな風にキレて気持ちぶつけるなんて。
ほんとに最低だし、ばかだ。


あたしの足は自然と千香の家に向かっていた。
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