好きを君に。
「たっだいまあーー」
そのとき玄関のドアを開けたであろう音ともに、大きな声が部屋まで届いた。
「あ、やば。千紗だ」
その声に千香がげんなりした顔をしている。

千紗ちゃんは千香の妹で小学6年生だ。
小学生の時はよく遊んでたしあたしも仲がいい。

ドタドタと駆ける音がして、千香の部屋が開くとランドセルを背負った千紗ちゃんが入ってきた。

「だれかきてるのー?」
あたしの姿を認めた千紗ちゃんは目を輝かす。
「遥ちゃんだー! 久しぶりー!」
「千紗ちゃん、久しぶり」

千紗ちゃんはすごく明るくて陽キャタイプだ。
千香とは真逆のタイプ。

「なになに遊びに来てたのー?」
「千紗、あんた先に手洗って、荷物置いてきなよ」
「手は洗ったもーん。あ、お姉ちゃん、勝手に千紗の部屋からクッションもってきたでしょ!」
「別にいいじゃん」
「あ、クッキーあるじゃん。千紗も食べよーっと。で、何の話してたのー?」
千紗ちゃんはクッキーをひとつ取って袋から取り出すと、あっという間に輪に入り込んで、その場に座る。
「あー恋バナ?」
あたしがごまかすように笑うと千紗ちゃんの目がキラキラと輝きだす。
「え!? 恋バナ!? お姉ちゃんの!?」
「違うよ。あたしの……」
「遥ちゃんの!? え、千紗も聞きたい!!」
身をのりだした千紗ちゃんに圧倒されていると、千香が首根っこを掴んだ。
「あんたは関係ないでしょ」
「お姉ちゃんも関係ないじゃん! ねえねえ、どんな人?」
「同じクラスの人だよ」
「いいね! まだ付き合ってないの?」

そうか。普通女の子ってこうだよね。
千香といつもいるからなんか感覚麻痺してたかも。

「付き合うことは、ないよ」
「え、なんで? あ、彼女いるの?」
「いないけど……」
あたしの返答に千紗ちゃんはハテナを顔にうかべる。
「じゃあなんで付き合うことはないの?」
「その人はあたしのこと好きじゃないからだよ」
「え? 告白したってこと?」
「してないよ」
苦笑しながらいったあたしに、千紗ちゃんはますます腑に落ちない顔をして首を傾げる。
「じゃあまだその人が遥ちゃんのこと好きじゃないかわからなくない?」
「わかるよ」
「なんで? エスパーなの?」
「あたしを好きな人に協力してるからだよ」
「え、三角関係ってこと!?」
きゃーと千紗ちゃんのテンションが上がって、千香が「千紗」と諌めるように声を出した。
「あ、ごめんなさーい」
「いいのいいの」
「でも協力してるからって好きじゃないとかわかんなくない?」
「好きだったら協力しないでしょ」
「そんなのわかんないよー! だってさあ、事情あるかもしれないしー、それに告白したら遥ちゃんが好きだって気づくかもしれないじゃん!」
「いやー、多分そんなことないと思うなー」

面白がって協力してるだけのような気がする。
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