好きを君に。
掃除はその後何事もなく終わった。
「じゃ、ごみ捨ては遥と藤崎ね」
ゴミをまとめた千香が、あたしたちを見比べて決定事項のようにいった。
「なんでだよ! 普通じゃんけんだろ!」
「だれが掃除邪魔したんだっけ?」
不満を口にした藤崎は、氷のように冷たい目と淡々とした千香の口調に、うっと後ずさる。
ゴミも二袋しかないし、二人もいるのかな?
千香に逆らっても返り討ちにされるので、ごみ捨ては受け入れるとして、どちらか一人だけでも良さそうな気はする。
あたしと藤崎のじゃんけんを提案しようと口を開こうとすると、千香が耳元で「二人きりだよ」と囁いた。
ーー!!
たしかに、そうだけど!!
ただのごみ捨てなのに二人でいられる時間ができることは嬉しくて、あたしは結局なにもいわなかった。
藤崎はそんなことを思い当たりもしないのかぶつくさ言いながら、諦めたようだ。
「高坂、早くしろ」
ゴミをひとつもった藤崎にいわれて、あたしはあわててもうひとつのゴミを持って二人で教室を出た。
……千香は、あたしがどんな風にいえば、ちゃんとわかってる。
甘い言葉に、誘惑されてしまった。
だって二人きりなんて、あまりないんだもん。
……ただの、ごみ捨てだけど。
ムードも何も無いけど。
並んで歩いているだけなのに、どくん、どくんと鳴り止まぬ鼓動。
気づかれるはずもないのに、藤崎に気づかれないよう祈った。
「たくよー。お前のせいだかんな」
無言でしばらく廊下を歩いていたが、沈黙を破ったのはそんなふてくされたような藤崎の言葉だった。
あたしは反射的に眉間に皺を寄せてしまい、ふん。と顔をそらす。
「あたしは悪くないし」
「じゃあだれが悪いんだよ」
そういわれて、躊躇なく藤崎を指さす。
「あんたでしょ」
「俺はなんもしてない」
「ぎゃあぎゃあ騒いだじゃん」
「それはお前も同罪」
お互いに睨みつけ合い、また無言で廊下を歩く。
はあ。
なんで、ケンカしちゃうかなあ?
本当はケンカじゃなく、普通に話したいだけなのにな。
ケンカしてる時は、そこまでドキドキしない。
それは怒りが先に来てるから。
でもそのかわり、かわいくないことばかりをいってしまう。
嫌われても、文句が言えないような。
かわいくないことばっかり。
自己嫌悪しても結局同じことの繰り返しなんだけど、へこむ。
今更かわいこぶってもしょうがないんだけど、さ。
でもやっぱりさ。
高望みかもしれないけど、少しは意識してほしい、女子として。