好きを君に。

ーー桐野は、すごいなあ。

後ろ姿を見ながらあたしは桐野を尊敬の目で見た。

告白した相手に普段通りに接するって、なかなかできることじゃないって思う。
あたしは藤崎に告白したわけじゃないけど、いつも通りに接するなんてできなかった。

自分の気持ちを感情のままにぶつけて。
そのことが恥ずかしくて目も合わせられない。

桐野は、大人なんだな。
あたしと違って。


あたし、桐野が好きならよかったのに。

そしたらあたしも桐野もハッピーエンドで、藤崎を困らせることもなくて。
幸せな気分でこの日を迎えられたのに。

こんなことを考える時点で、あたしは桐野のことを今はそういう対象としてみていない。


「おはよ」
「あ、おはよー」
教室に入ってきた千香に挨拶されて返す。
千香はそのまま自席へ向かっていき、あたしはまたぼーと前を見ていた。

「はよ」
「おはよ」

……て、え?

挨拶されて反射でしてしまったけど、パッと後ろを見ると藤崎だった。

え? 今、藤崎、挨拶あたしにした?

藤崎はあたしの方を見ることなく自分の席へ向かっていた。

……もしかしてあたしじゃなかった?
そうじゃなかったら恥ずかしいんだけど。

あの日から話していないので確信も持てないし聞くことも出来ない。


「席着けー」
もやもやしていると、先生が入ってきてしまい、みんな席に着く。

今日はチャイムは、鳴らないのかな。

「今日は卒業式だ。泣いても笑っても全員で会うのは最後だ。きっちりやれよ」
既に何人かの女子生徒が泣きそうな顔をしていた。
先生はそれだけいうと、にっこり笑って、手を叩く。
「じゃあもう体育館に向かう。廊下に並べ」

あたしたちは廊下に名簿順で並んだ。
そしてそのまま体育館へ。

卒業式は、はっきりいうと退屈だった。
校長先生の話も来賓者の話も。
眠くて寝そうだった。

卒業証書授与も恥ずかしかった。
だって「はい!」て大きな声で言わなきゃいけなくて。
しかも階段下りるとき、みんなの顔が舞台から見えるし。

でも、さすがに歌を歌っている時は色々こみ上げて泣きそうになった。
頭の中で中学校の思い出が駆け巡って。
実際、何人かの女子が泣いてたからつられかけたっていうのもあるかもしれないけど。

卒業式が終わると、教室で先生が最後に話をしてくれた。
既にその時には女子の半数以上が泣いていて。
男子と千香は全然だったけど。
あたしは必死にこらえながら話を聞いていた。

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