好きを君に。
帰ってから速攻場所を調べて見たら、あたしの家からでも1時間以上はかかるところだった。
たしかにサッカー部が強くて有名みたいだけど、そんな遠くにいくの?
家から距離がある、ということは、それだけ交通費がかかる、ということだ。
お母さんにはできるだけ近いところにして。といわれているし、あたし自身もただ好きな人がいる、という理由だけで遠くまで通う決断をすることは出来なかった。
そしてその結論が出た瞬間に、悟ってしまう。
あたしは、藤崎と一緒の高校に行けないんだって。
こんな喧嘩する関係は、卒業までしかできないんだって。
その衝撃は予想以上で、あたしは進路調査票に何も書けなくなってしまった。
気付けば締切日を過ぎていて、先生に急かされて。
何度か北浜高校の名前を書いたけど、理由を聞かれた時に答えられる気がしなくて消した。
結局、元々の第一志望だった東高を書いて提出したのだ。
不満があるとかじゃない。
もともとそのつもりだったし、制服だって可愛いし、千香も同じ高校志望だし。
でもあたしは、やっぱり心のどこかで藤崎と同じ高校がいいって思ってた。
今のこの関係がもう終わってしまうなんて考えたくなかったし、離れるなんて想像もしてなかった。
もうすぐ、卒業なんて嫌だな。
「……か」
今更志望校なんて変えられないしどうしようもないけど。
「高坂!」
大声で名前を叫ばれて我に返る。
藤崎の怪訝な顔があたしに向けられていた。
「お前、どこまで行くつもりだよ。教室、こっちだぞ」
「あ、うん」
ふと気づけば、あたしは教室を素通りしようとしていた。
「ばかじゃねぇの。ぼーとしてるからだ」
「うっさいな!」
「お前のがうっさい。春になったらこの声聞かなくていいと思うと、ほっとする」
「それはこっちのセリフ!」
思わずいつものように言い返したけど、ほっとなんてするわけない。
寂しい、って絶対思う。
締め付けられるこの気持ちは、あたしだけだと知っているけど。
卒業したら。
もう、この姿と、この声と、毎日会うことなんて、叶わない。
たとえあたしが、どんなに望んだって。