好きを君に。
教室に戻ると、藤崎はさっさと桐野と帰っていった。
あたしもカバンをとって、あたしの帰りを待っていた千香と一緒に教室を出る。

「千香はさー」

下駄箱で靴をとりだしたときに、隣にいる千香に呼びかける。
桐野と藤崎がまだ見えるかと淡い期待をしてたけど、既にもういない。

「好きな人とか、いないの?」
「いないね」
間髪入れずにあたしの顔すら見ずに予想の答えが返ってきて、あたしもそうだよねと嘆息する。

千香が恋愛とか想像できないや。
恋バナみんながしてるときも冷めた目でしてたし。

「想像できないでしょ、私の恋愛とか」
「……まあ、あんまり」
だれかに頬を染めてきゃっきゃいう千香なんてみたら思わず二度見してしまうかもしれない。
現実主義者で超クールだし。
「そんなことより今は受験だし」
「はい。その通りです」
つきつけられた現実は、おっしゃる通りすぎて。

二人で通学路を歩きながら、寒さに耐える。

「藤崎となんかあったの?」
「なんもないよ。ただもうバイバイだなあって思って」
「なんだかんだで、離れたくないんだ」
「ほっといて」
はっきりと言葉で表現された気持ちは恥ずかしくて、
思わず噛み付いてしまう。
千香は気にした様子もなく、「藤崎、どこいくんだっけ?」と聞いてくる。
「北浜高校だって」
胸の疼きを押さえながら、何事もないように笑顔で答えた。
「へえー。また遠いところを」

千香は知ってるんだ。すごいな。

「志望校変えなかったんだ、遥」
「さすがに遠すぎるよ……」
「そりゃそうか。学力的にも厳しいもんね」
あくまでクールな千香は容赦ない。
「藤崎も厳しいんじゃない? 成績知らないけど」
「どうなんだろ? テストの点数はそこまで変わらないと思うけど」
そこまで頭がいいイメージもないし、ちょこちょこ張り合ってたのでどんぐりの背比べだと思う。
「家から遠くても行きたい高校なんだね」
「うん……」

なんとなく家の近くや学力で選びそうな志望校を、家から遠くて、もしかしたら学力が足りないかもしれないのにそれでもそこを選んで。
そこまでして選びたい、なにかがあるんだろうなって思う。

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