もう誰にも恋なんてしないと誓った

1 貴方の本気のキス◆シンシア

 毎月第2週目の火曜日は、美化委員会がある。

 ひと昔前だったら、放課後に集まっていたらしいが、今時の風潮は授業が終わってるのに拘束されたくない、とか。
 下校後は何かしら用事がある、とか。
 そんな感じで、現在は昼休みを利用して各委員会は活動していた。



 その日は夏休みに入る前の、つまり6月学年末の最後の委員会があった日だった。

 1年間お世話になった学舎の全校点検を前に、学校側に要望等を提出するために委員各自が気になっていた箇所の下見をしようと言うことになっていた。


 わたしは特別教室棟の廊下を足早に歩く恋人の姿を見掛けて、つい後をつけてしまった。
 どうして彼がこんな場所に居るの?と不思議に思って。

 声を掛けるには遠過ぎて。
 追い付いた彼に後ろからいきなり抱きついて驚かせるのも楽しいから。
 自分から抱きついたことなどないわたしがそんなことをすれば驚くだろうけれど、きっと彼はいつもの眩しい笑顔を見せてくれるはず。



 「とてもいいひとで、貴女にお似合いだと思う」と、親友に紹介された頃からは考えられない位に、わたしは彼に甘えるようになっていた。
 彼は明るい性格で、あれこれ考えてしまうわたしをいつも引っ張ってくれた。


 母も彼を気に入っているし。
 この彼と共になら、わたしは幸せになれる。


 そう思って、4月に彼と婚約の口約束をして、先月は王都を訪れた父にも紹介した。




 今日は委員会があって、昼食は一緒に食べられなかった。
 だけど、ここで会えた。
 手足が長い彼の歩幅は大きく、なかなか追い付かないけれど。


 わたしの心は弾んでいた。
 

  
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