もう誰にも恋なんてしないと誓った
 何も知らない子供の癖に、この家を継ぐからって偉そうにして!

 そう思うと腹が立って、セーラ様が嫡男だからと勝手なことを言うお兄様のことを鬱陶しく思うのもよく分かる。



「オースティン様やキャメロン様にまとわり付いたって、最終的に選ばれるのは姉上じゃないから、恥ずかしい真似は止めてくれ。
 子爵家の娘じゃ、分不相応なんだって!
 何でそんなこともわからないんだ!」
 

 わたしじゃ、分不相応?
 もう何も言う気にはならなくて、止めようとするダレルを無視して家を飛び出した。
 家の馬車は母が命じて、わたしが使えないようにされている気がしたから。


 帰りは侯爵家の馬車で送って貰えばいいのだから、流しの辻馬車を拾って「サザーランド侯爵家まで」と告げる。
 お金は持っていなかったけれど、キャメロンに借りればいいと思って、平気だった。



 侯爵家に着くと、出迎えてくれたお馴染みのキャメロン付きの執事に、お金を持っていないこと、キャメロンに取り次いで欲しいことを伝えた。
 執事が頷いて、辻馬車の馭者を待たせて彼に伝えに行く間、仕方なく馬車寄せでわたしも待っていた。 

 丁度あの執事が出迎えてくれて良かった!
 今日はキャメロンは出掛けていなかった!
 わたしには幸運の女神がついているのね。


 慌てた様にキャメロンが来てお金を払ってくれたから、馬車が出ていった途端に、彼の腕にしがみついた。


「ちょ、ちょっと!どうしたんだよ!
 家の馬車は?何かあったのか?」

「何も、何も……ただキャムに会いたかったの!」

「えっ?」


 ただキャムに会いたかった。
 そう口にしたら、それが本当のことに思えた。

 そうだ、わたしはシンシアの話を聞きたかったんじゃない。
 ただキャメロンに会いたかったんだ。



「……アイリス、それって?」

「わたし、後悔してる。
 キャムにシンシアを紹介したこと。
 昨日、初めて気が付いた。
 貴方が好きなの、とても」

「ま、待って!急にそんな」


 心に溢れだしたこの感情を止めることは出来なかった。
 お兄様の脅迫も。
 母の干渉も。
 弟からの軽蔑も。
 ……親友との友情も。
 そんなこと、どうでもよく思えた。



「聞いてくれるだけでいいの、何も求めてないから。
 ただ貴方が好きだと、それだけを言いに来ただけなの」


 自覚しろ、とお兄様から言われた。
 その通り自覚したわ。


 わたしはキャメロンを愛している。

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