もう誰にも恋なんてしないと誓った

17 いわゆる当て馬◆シンシア

 セントモア大聖堂で行われる予定だったわたしの婚約式。


 自分も名付け子の婚約式に出席したい、証人にもなると仰せになった方が居て……
 警備の都合上、慣れている大聖堂にして欲しいと請われたから。



「……失礼致しました、質問を続けさせていただきます」


 言えないからと嘘をつくわけにもいかず、黙るしかなかったので、グレイソン先生は察してくださったようだ。




「お嬢様が学院内で、ご自身の目で密会現場を見られたそうですが。
 キャメロン卿とマーフィー嬢は以前からそのように……その……
 幼馴染みとしての距離感はどうでしたか?」 


 お気の毒に、グレイソン先生は。
 質問するのにも、すごくわたしに気を遣っていらっしゃる。
 

「ふたりにとって、幼馴染みとしての適切な距離感がどのようなものか、わたしには判断はつきません。
 わたくしの前では、ふたりは気安く会話はしていましたけれど、特に身体的な接触等はしておりませんでした。
 ですが、密会はあの日が初めてではない気が致しました」


 あの準備室での光景が。
 目の前に浮かんだ。
 


「そう思われる根拠をお聞きしても?」

「わたくしは廊下を歩いているグローバー様を追いかけて、準備室に入りました。
 入室時間にそれほどの開きはありません。
 お互いにあの場で初めて気持ちを告白して、それから直ぐにあのように触れあう等、有り得えないのではないかと。
 恐らくふたりは以前からそのような関係になっていて、あの日は最初からそれが目的で密会していたのだと思います」



 あの熱烈なキスや、それ以上の行為が、あの日が初めてではないと推測したけれど。
 少なくともわたしに紹介する前には、ふたりは幼馴染みの域を出てはいなかったような気がする。


 何故なら、あのアイリスの性格ならば。
 堂々と侯爵令息との恋愛関係をわたしに自慢して、キャメロンは自分の物だから好きにならないで、と釘を刺す。
 友人としても、わざわざ紹介などするはずがない。
 アイリスは片想いだと話していたオースティン様にまで、独占欲を見せていた。



 では、キャメロンの方は……どうだったかなんて、それはわからない。

 わたしには男心など知りようもないから。

< 33 / 80 >

この作品をシェア

pagetop