もう誰にも恋なんてしないと誓った

18 貴方のことでいっぱいになる◆シンシア

 自分でも情けない心情を、初めて吐露した。
 母にもスザナにも話せない心情を。


 こんな想いを抱えていると知ったら、わたしに対して責任感の強い母とスザナは自分を責めてしまう。


 
「こんな話を聞かされても、お困りになるだけですね。
 申し訳ございませんでした」

「……いえ、私共は定められた法に従ってのみ、頭を使える法律バカなので、お嬢様のお気持ちに解決法を提示出来ないのを歯痒く思うばかりです。 
 お力になれず、申し訳ございません」

「聞き流してくださいませとお願い致しました。
 聞いていただけただけで、少し心が軽くなりました」


 グレイソン先生が申し訳なさそうに眉を下げられた。
 解決法を提示して欲しかったわけではないし、本当に聞いていただけただけで充分だ。
 



 わたしはハミルトンだ。
 貴族の家に生まれた一人娘。

 この手から離れていくものにすがったりしない。


 
 だけど……一番大切だったものを、自ら手離した。

 
 わたしの手に残されたもの。


 右手には特権と。
 左手にはそれに伴う責任。 

 


「……正直に申しまして、今回は法的には処罰出来ないと思います。
 キャメロン卿が何を思っていたかは不明ですが、お嬢様や奥様に与えた心の傷はとても深いものです。
 私は法律家として、何より人間として、とても許せる所業ではないと憤りを感じております。
 サザーランド侯爵家のご次男に紳士を名乗る資格はない、と。
 それだけは、閣下にも思い知っていただきたいと思っています」



 キャメロンとの縁組がこんなことになるなんて。
 グレイソン先生もきっと驚かれたはず。
 先生には、婚約式でサインをする誓約書内容の相談もしていた。

 夏休みに領地に戻る前に誓約書の下書きを拝見して、問題がなければ正式な書面にして、婚約披露までに侯爵閣下とキャメロン本人に目を通してもらう予定だった。


 今日はこんな用件で、予定外で会うことになってしまった。
 それなのに先生は破談になったわたしに対して、態度にも言葉にも。
 そんな依頼は無かったかのように接してくださった。


 それが本当にありがたくて、嬉しくて。
 改めて御礼を言った。

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