もう誰にも恋なんてしないと誓った

20 身の程知らずの娘◆アイリス

 その日、シンシアは午後の授業を受けずに早退した。

 わたし達の前では気丈に振る舞っていたけれど、プライドだけではもたなかったのだろう。
 逃げ帰ったのだと思った。
 せいぜい優しいお母様と侍女に慰めて貰えばいい。



 放課後、根性無しのキャメロンに会いに行ったけれど、彼もまた授業が始まって直ぐに早退を申し出て、帰っていた。


 家に帰れば、セーラ様がいらっしゃっていた。
 これまで、家にいらっしゃったことは一度も無かったけれど。
 もしかしてキャメロンとの婚約の件で、早速来てくださったのかも、とわたしは笑顔を見せた。
 いつも、セーラ様が褒めてくださる笑顔だ。


 けれど、よく見たら。
 傍らには青い顔をした母と、何故かお仕事から帰宅していた父が居て……


「何笑っているのよ! このアバズレがっ!」

 わたしの顔を見るなり、顔を歪ませたセーラ様に掴まれて、思い切り扇で頬を叩かれて、勢いで倒れてしまった。
 どうして叩かれたのか理由もわからないし、これまでセーラ様に罵られたことなど無い。

 わたしは恐怖で立ち上がれなかった上に、何より唇の端が切れて出血もしているのに。
 父も母も、わたしとセーラ様から視線を逸らせて俯くだけで、助け起こしに来てくれない。



「いい気になって、勝手な真似をして!
 よくもよくも、キャメロンの!
 わたくしのキャメロンの将来を潰してくれたわね!」


 勝手な真似?
 セーラ様はわたしに何度も……


「まさか、お前が自分から誘いをかけるような淫乱な娘だとは思わなかったわ。
 それも学院の教室でなんて!なんて娘なの!
 ジェーン、どうやってこの責任を取るのよ!」


 責任を取るって、どうして母が?
 そんなのが発生するなら、男側でしょ!
 淫乱な娘と罵られたけれど、わたしの純潔を散らしたのはキャメロンなのよ!
 責任を取って結婚して貰わないといけないのは、わたしの方じゃない!


 それなのに両親は反論もしてくれない。
 父はともかく、母は親友なのだから少しくらい何とか言ってくれても!


 両親が何も言い返さないから、仕方なくわたしが言うしかない。
 可愛げがないかもしれないが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。


「待ってください!
 キャメロンからセーラ様も、わたし達のことを賛成していただいていると聞いていました!
 それにわたしにも子供の頃から、本当の娘になって、と何度も仰せになっていたではありませんか……」

< 39 / 80 >

この作品をシェア

pagetop