もう誰にも恋なんてしないと誓った

3 物事には順番がある◆シンシア

「ねぇ教えてくださる、アイリス・マーフィー様。
 貴女、今でもオースティン・グローバー様が好きなんじゃなかったの?
 どうして、単なる幼馴染みだと言っていた、あの御方の弟とキスしてるの?」



 『今でもオースティン・グローバー様が好き』

 『単なる幼馴染みだと言っていた、あの御方の弟』


 わざと、そう口にした。
 子供の頃初めて会った時にキャメロンのお兄様であるオースティン様に一目惚れして、今でもずっと片想いをしていると。
 わたしはアイリスから打ち明けられていた。


 キャメロン本人も、アイリスにとって自分のお兄様がずっとそんな存在だったと知っていただろうけれど。
 貴方が今抱き締めていた幼馴染みは、わたしにも貴方のお兄様の事をそう説明していたのよ、と聞かせたくて。


 案の定それをキャメロンの目の前で、改めて彼に向かって聞かせたくなかったアイリスは俯いていた顔を上げ、わたしを一瞬睨んだ。
 一方、クズの方はわたしの右腕を掴んだ。


「だから、シンシア!
 アイリスじゃなくて、俺を責めろ、って!」


 今朝も始業前に会った時に、わたしに甘い言葉を囁いていた二枚舌男とはもう話したくもなかったけれど、身体に触れられたから仕方なくその汚れた手を払い除けた。


「その手で、わたしの身体に触れないでいただけますか。
 穢らわしくて吐き気がします。
 責めているのではなく、彼女に事情を尋ねているのです。
 わたしは冷静に対処しようとしています」

「……」

「物事には順番がありますでしょう?
 貴方達はふたり、わたしはひとり。
 一度にふたりはお相手出来ません。
 ですから先に、彼はお薦めだと言いながら貴方みたいな男を、わたしに紹介してきたマーフィー様にお尋ねしているのです。
 グローバー様のご事情は別の時間にお聞きしますから、今は席を外してくださいますか?」

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