もう誰にも恋なんてしないと誓った
33 左手にはそれに伴う責任を◆シンシア
この形で求婚をして貰ったのは初めてだった。
キャメロンは馬車の中で、向かい合った席から隣に移動して来て、だった。
そして今から5年前に城下を見渡せる丘の上で、それらしいことを生まれて初めて言って貰ったのも、同じ方向を見て、だった。
つまり、恋愛小説で読んだような。
それこそ、レディパトリシアの舞台で観るような。
真正面からオーソドックスな体勢で求婚をしてくださったのはオースティン様が初めてだった。
これには驚きと恥ずかしさと誇らしさのような、一種の陶酔感に襲われて、つい差し出された手を取りそうになった……
絶対にお断りするしかないお相手なのに。
「ありがとうございます。
取り敢えず、立ち上がっていただけますか」
その手を取ることは出来ないけれど、お礼だけは伝えたい。
この唐突な求婚は。
今回の件で、王弟殿下に何か言われたのかもしれない。
けれど現状では、サザーランドにとってハミルトンと縁組を結ぶのは却って悪手だ。
次男と破談した直後に長男と再婚約だなんて、王家からの印象がもっと悪くなるだけ。
それもご理解した上での、閣下とオースティン様の婚約打診なの?
他にも何か、お考えがあっての求婚なのはわかっている。
この御方は、第一に家と領地のことを考えて行動なさる方だもの。
だけど、だからこそわたしがお断りする理由も、よくわかっていらっしゃるはず。
わたしに促される形で、立ち上がったオースティン様は左膝に付いた土を、掌でパンパンと軽く払われた。
わたしに向けたその顔には、当然のように断られて傷付いた様子は見られない。
「やはり、この手を取ることは難しい、ですか」
「はい、申し訳ありません。
わたしの話をお聞きになっても、お申し出くださったことは嬉しく思うのですが。
きっと、何もかもご存じの上でのことですよね」
「……何もかも、ではありません。
当事者のエドワード殿下は、誰にも一切お気持ちを漏らしませんし。
私はアルバート殿下の近習の1人として、帝国への留学にお供を拝命致しましたから」
そうだった、オースティン様は去年、アルバート殿下と帰国されたのだ。
では、アル兄様から?
「殿下の口が軽い等と、どうか思われるのだけは……
言い訳になりますが、あの国では、他国の王族に対する態度とは思えない理不尽な扱いを随分と受けました。
祖国への郷愁と共に、夜な夜なその日の愚痴や不満を吐き出さなければ、精神的にもたない状況だったのです。
そもそもこちらが望んで留学したのではない、あちらからの招聘と言う形の強制的なものです」
アル兄様とも何年もお会いしていない。
帝国でそんな辛い日々を過ごされていたとは。
「表向きの理由は、この国の次代を担う若き後継者達に広い世界を見聞させる為に、でした。
笑わせます……我が帝国に比べて、お前達の王国など取るに足りない、歯向かう気など起こせば国ごと、国民ごと、全部潰してやる。
若い世代の私達にそれを思い知らせるのが、狙いでした。
だから、婿入りする第3王子ではなく、国に残る第2王子を名指しで留学させたのです。
ですが、多分本当の目的は、アルバート殿下から話を聞くであろうエドワード殿下の心を折る為だったのではないかと推察されます」
「心を折る為に……」
「ご心配されたアルバート殿下に、エドワード殿下は『承知している、覚悟は出来ている』とだけ」
キャメロンは馬車の中で、向かい合った席から隣に移動して来て、だった。
そして今から5年前に城下を見渡せる丘の上で、それらしいことを生まれて初めて言って貰ったのも、同じ方向を見て、だった。
つまり、恋愛小説で読んだような。
それこそ、レディパトリシアの舞台で観るような。
真正面からオーソドックスな体勢で求婚をしてくださったのはオースティン様が初めてだった。
これには驚きと恥ずかしさと誇らしさのような、一種の陶酔感に襲われて、つい差し出された手を取りそうになった……
絶対にお断りするしかないお相手なのに。
「ありがとうございます。
取り敢えず、立ち上がっていただけますか」
その手を取ることは出来ないけれど、お礼だけは伝えたい。
この唐突な求婚は。
今回の件で、王弟殿下に何か言われたのかもしれない。
けれど現状では、サザーランドにとってハミルトンと縁組を結ぶのは却って悪手だ。
次男と破談した直後に長男と再婚約だなんて、王家からの印象がもっと悪くなるだけ。
それもご理解した上での、閣下とオースティン様の婚約打診なの?
他にも何か、お考えがあっての求婚なのはわかっている。
この御方は、第一に家と領地のことを考えて行動なさる方だもの。
だけど、だからこそわたしがお断りする理由も、よくわかっていらっしゃるはず。
わたしに促される形で、立ち上がったオースティン様は左膝に付いた土を、掌でパンパンと軽く払われた。
わたしに向けたその顔には、当然のように断られて傷付いた様子は見られない。
「やはり、この手を取ることは難しい、ですか」
「はい、申し訳ありません。
わたしの話をお聞きになっても、お申し出くださったことは嬉しく思うのですが。
きっと、何もかもご存じの上でのことですよね」
「……何もかも、ではありません。
当事者のエドワード殿下は、誰にも一切お気持ちを漏らしませんし。
私はアルバート殿下の近習の1人として、帝国への留学にお供を拝命致しましたから」
そうだった、オースティン様は去年、アルバート殿下と帰国されたのだ。
では、アル兄様から?
「殿下の口が軽い等と、どうか思われるのだけは……
言い訳になりますが、あの国では、他国の王族に対する態度とは思えない理不尽な扱いを随分と受けました。
祖国への郷愁と共に、夜な夜なその日の愚痴や不満を吐き出さなければ、精神的にもたない状況だったのです。
そもそもこちらが望んで留学したのではない、あちらからの招聘と言う形の強制的なものです」
アル兄様とも何年もお会いしていない。
帝国でそんな辛い日々を過ごされていたとは。
「表向きの理由は、この国の次代を担う若き後継者達に広い世界を見聞させる為に、でした。
笑わせます……我が帝国に比べて、お前達の王国など取るに足りない、歯向かう気など起こせば国ごと、国民ごと、全部潰してやる。
若い世代の私達にそれを思い知らせるのが、狙いでした。
だから、婿入りする第3王子ではなく、国に残る第2王子を名指しで留学させたのです。
ですが、多分本当の目的は、アルバート殿下から話を聞くであろうエドワード殿下の心を折る為だったのではないかと推察されます」
「心を折る為に……」
「ご心配されたアルバート殿下に、エドワード殿下は『承知している、覚悟は出来ている』とだけ」