もう誰にも恋なんてしないと誓った
 学院の最終学年が始まった。

 父からの依頼通り、キャメロンとは端と端のクラスに分かれていて、顔を合わせることはなかった。

 ところが冬休暇が始まる前、前期試験のレポート作成に必要な書籍を図書室で借りた放課後。
 廊下で待ち伏せしていた彼に声を掛けられた。 


「シンシア!俺の話は後から聞くと言っていただろう!」

 腕を掴まれ、顔を近付けてくる。
 こんな無作法な真似をする人だとは思わなかった。
 これまでも何度かすれ違うことはあったが、特にわたしを気にしている素振りはなかったのに。


「まだ、誰とも付き合ったりしていないんだろう?
 俺の事が好きだったし、今もそうなんじゃないのか?」

「……」

 掴まれた腕の痛みと初めて見る彼の表情に、恐怖を覚えて一瞬声が出なかったが、直ぐに男子生徒が2人駆け付けてくれた。
 彼を押さえてくれたのは、生徒会長の公爵家子息と伯爵家の子息だった。

 公爵家の生徒会長を連れてきてくれたのは、伯爵家子息の機転だった。
 彼だけでは侯爵家のキャメロンを止められない。
 学院内の親の爵位は関係なしは、あくまで建前だから。


「卒業までなんだ!
 卒業したら、俺はもう……」 


 キャメロンの叫びも最後まで聞くこと無く、彼は連れていかれた。
 試験前の放課後で良かった。
 多くの生徒が早めに下校していて、この騒ぎを知る人は少ない。


 わたしを助けてくださった男子生徒の伯爵家はサザーランド侯爵家の寄り子の家門で、後から「オースティン様から現場を押さえろと命じられていたので腕を掴むまで待っていて、すみませんでした」と謝られた。

 この事がオースティン様が仰っていた『付きまとい等しないように、取り計らいます』だったのだ。

 
 それからは生徒会役員がキャメロンを見張るようになり、卒業するまで彼はわたしには近付けなくなった。



     ◇◇◇

    
 勉強会とまではいかないけれど、不定期で集まるレスター伯爵邸で、わたしは同じ様な後継者の女生徒と仲良くなった。
 彼女は例のオースティン様主催の勉強会にも参加をしている。

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