もう誰にも恋なんてしないと誓った
 それがどのような内容なのか、他には誰が参加されているのか、知りたい気持ちはあったけれど、お断りしたわたしは部外者なので、こちらからは尋ねることは出来なかった。

 そんな時、彼女の方からその話題を出してくれた。


「グローバー様はシンシアにはお聞かせしなかったと思うけれど、実は勉強会メンバーにはダレル・マーフィーも居るの。
 貴女のことを誘うつもりだと仰ったグローバー様に、もしシンシアが勉強会に参加するなら、合わせる顔がないので私は辞めますと伝えたと、ダレル本人から聞いたの」 

「……」 


 その状況がダレル・マーフィーから話したのか、それともオースティン様との会話を聞いていた彼女が、後からダレルを問い詰めたのか、そこは説明がない。

 彼は北部地方局へ行かれたご両親に付いて行かずに、学院の寮に入っている。
 今は話すことはないが、学院で偶然に顔を合わせた時にアイリスから弟だと紹介されたダレルは、物静かな感じがする少年で、オースティン様との会話を自分から人に話すタイプには思えない。



「グローバー様は領地持ちじゃない彼を、将来は自分の補佐にしようとされていたんだけれど、ね、ほら、姉のアイリスが」

「……」

「そのせいで、話も立ち消えになって、実家も地方へ飛ばされたでしょ?
 彼は中央の文官も諦めて、地方行政で働くと一念発起しているようなの。
 ね、もし、ダレルがハミルトンで働きたいと言ってきたら貴女どうする?」


 彼女がわたしに何を言いたいのか、何を言わせたいのか、分かるような気がした。
 そもそも恥を知る彼なら、そんなことはまず無いと言うのが前提にある。


 ダレル・マーフィー自身はハミルトンで働きたいとは思わないだろう。
 だから、そんな質問は聞くだけ無駄なのに。

 
 彼女から聞かされた話が本当であれば。
 そこまで打ち明けられる友人だと言うこと。

 だったら、貴女が、どうにかして差し上げたら?
 とは口に出さなかった。



 わたしの時間と体力は無限にあるわけではない。
 だから、ハミルトンの領民でもないダレルの就職の為に世話をする時間や、走り回る体力も無い。
 誰にでも優しくなんて出来ないのが、わたしだ。

 
 アイリスのお陰で、少しは人を見る目を養えた。
 もうこの彼女とも、少しずつ距離を取ろうと思った。


 
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