もう誰にも恋なんてしないと誓った
 侯爵になられたオースティン様にお会いしたのは、10月にレスター伯爵邸で開かれたティーパーティーが最後だった。
 そこでわたしはミュリエル様に引き合わせていただいた。

 オースティン様がその日エスコートされていたのは、ミュリエル様の遠縁のご令嬢。
 爵位を継がれたので、ご縁を繋げようと周囲からお話が途切れないようで、そろそろ真剣に考えますと仰られていた。



 ご紹介してくださったミュリエル・ドーン・レスター伯爵様は、お噂通りの素晴らしい御方だった。
 オースティン様とは20歳以上の年齢が離れているけれど、とても気が合うご友人なのだそうだ。


「彼は帝国へ行ってから変わられたわ。
 それまではご自分の領地だけ、のところがあったの。
 でも今は……あの集まりもね、これからの若い方達に色々と自分達の頭で考えて欲しいと始められたことよ。
 ……来年のエドワード殿下の帝国入りに併せて、その内の何人かを近習として赴かせようと、アルバート殿下と連名で陛下へ嘆願書を提出なさったのよ」 


 お誘いくださった、あの集まりは。
 それを考えて……


「ご自分もこの国の大使として、同様に帝国へ参りますと望まれておられるようね」



 後日、ご紹介の御礼にハミルトンの新作ワインを1ダース贈ると、丁寧な御礼のお手紙をいただいた。
 侯爵閣下の手蹟は、お父様の前閣下のそれと、よく似ていらした。

 それが、直接やり取りをした最後。

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