断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~
 ひとりでうんうん唸ってたら、山田が顔を覗き込んできた。

「それでだ、ハナコ。わたしはこの前の約束を果たそうと思う」

 この前の約束……?
 はて、山田と約束なんかしたっけか?

 いや待て、なに急に握る手に力を入れてるんだ?
 その上やけに鼻息荒くなってないか?
 っていうか、瓶底眼鏡が怪し気に光ってるように見えるんですけどっ。

「雪山で約束しただろう? いつか必ず、真正面から抱き合ってハナコの体を芯まで温めてやると……」
「な、内容に少々逸脱(いつだつ)がございませんのこと?」
「そんなことはない。今こそハナコの可愛い願いを叶えるときだ。遠慮などいらないぞ」
「い、今はまったく寒くはございませんし、無理に守るような約束だとは思えませんわっ」
「なんだ、照れているのか? ハナコは奥ゆかしいな」

 誰も照れてなどおらんわっ。

 どうして山田はこんなにもわたしに執着するんだ?
 未希に言われてからずっと考えてるんだけど、ハナコが好かれる要素なんて何ひとつ思い当たらない。

「ですがシュン様はあのときおっしゃいました。わたくしを傷つけるようなことは絶対になさらないと……」
「ふっ、案ずるな。これだけの人目があればわたしもある程度の自制はできる」

 ある程度の自制ってなんなん!?

 ってか、自制なんてまったくできてないじゃないっ。
 今は真夏なんだよ、暑苦しいからそれ以上近寄んなっ。

 椅子から転げ落ちる勢いで身を引くも、周りの人間は誰も助けちゃくれそうにない。

 そこの近衛兵! ニマニマ見守ってないで、今すぐ山田の愚行を止めろっ。
 それが忠臣の役目ってもんでしょうがっ。
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