断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~
「あの日……」
「え……?」
「君は泣いていただろう? それがどうしても気になって」

 かっと頬に熱が集まった。
 山田とのキスシーン、みんなにばっちり見られちゃってるんだった。
 ああ、もうっ、あんま考えないようにしてたのにっ。

「そのことは二度と口にしないでくださる? わたくしもう忘れてしまいたいの」
「……そうか、不躾(ぶしつけ)なことを聞いてすまなかった」

 これ、そのままそっくり山田に報告されるのかな。
 手紙でも伝えてあるから別にいいけど。
 損な役回りさせてすまんな、ダンンジュウロウ君。

「ハナコ嬢……!」
「きゃっ」

 な、なにっ、いきなり人の腕引っ張って。

「王子が来る」
「え?」
「会いたくないんだろう?」

 わたしを隠すようにして、ダンジュウロウは一歩前に出た。
 その背中越しに、廊下を歩く山田が見えて。
 はっとした山田はわたしに気づいたんだと思う。でも目が合う前に、思わず顔を(そむ)けてしまった。
 ダンジュウロウを(たて)にしてても、山田の視線が刺すように痛くって。

「行こう、ハナコ嬢」

 手を引かれ、山田から離れていく。
 その間もずっと強い視線を感じたけど。
 結局、山田が追いかけてくることはなかった。

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