きみと、境目の停留場にて。
その存在は言った



『あなたは罪を犯した』



『その罪を償うまで
相応の時を、ここで過ごしてもらう』



『この場所の、管理人として』




目が覚めた時

自分は何もない原っぱに
ひとり突っ立ていて

そこがどこなのかも、自分が誰なのかも
何一つ分からなかった


永遠と続く草原を
あてもなく、ただ歩き続けていると


開けた空間に、突然
ぽつんと現れたのは、黒猫の古風な面


地面に落ちていたそれを、手に取った瞬間
頭の中に声が響いた


男なのか、女なのか
子供のような、大人のような
性別も年齢も、定かではない

けれど、どこか聞き覚えのある柔らかな声



『あなたは死んだ』


声は粛々と言葉を続けた


自分は、自ら命を断ったのだと

現(うつ)し世に生を受けたものは
みな、平等にその生を全うする義務がある

その義務を途中で投げ出した人間
つまり、自死を選択した者には
ペナルティがあるのだと

そのペナルティと言うのが
自分が今いる場所

あの世とこの世の狭間

行く場所が定まっていない人間が赴く
休憩所のような、停留場のような
この場所の、この空間の管理をすること



「いつまでですか?」

『あなたが投げ出したものと
同等の時間、重さを得たとき』

「それを得たら、俺はどうなりますか?」

『行くべきところへ行ける』



自分が死んだ実感がないからか
自分に関する記憶を一切持ち合わせていなかったからか

目の前のその現実を、その存在の言葉を
特に疑うことも、怪しむこともなく
あるがまま受け入れた


どうせ、行くあても目的もない

この場所に拘束されたところで
なんの不自由もない



「分かりました」



そうして俺は
この場所の管理人になった
< 1 / 30 >

この作品をシェア

pagetop