きみと、境目の停留場にて。
月明かりのはっきりした夜
創りものの夜空を見上げ、ぽつりとつぶやく


「……会いたい人か」


よくある未練だ

これまでも、幾度となく
その言葉を耳にした



遺してきた家族が心配で逝けない


どうしても会いたい


顔を見たい


話したい


謝りたい


お礼を言いたい



「人」に関する未練は絶えない


それが、執着だろうと
憎悪だろうと、愛着だろうと
それだけ、誰かに強い想いを抱けるのは
すごいことだと、からっぽの自分は思う



「……」



……自分にも、そういう相手がいたのだろうか


そんな風に想って、想われて



死んだのか




「………今さら
興味を持ったって仕方ないのに」



自殺するくらいなんだから
ろくな人生じゃなかったはずだ


苦しいだけの、つまらない
何も成し得ない
何も残せない人生だったに違いない


そんな相手はいない





『そうじゃないかもしれない』





………心の中で


あの日、彼女に返した自分の言葉が
反対の意味で、自分に返ってくる



「………なんだかな」



それに驚く
驚いて、苦笑を浮かべる



長い長い時間
たくさんの人と出会って、別れて
見て、触れて

自分の中で、何かが変わってきたのか



ずっと変わらないと思っていたものが
変わっていくような感覚が


予感がした
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