きみと、境目の停留場にて。
「……だれ?」

「ここの管理人」

「ここはどこ?」

「ここは、きみの停留所
あの世とこの世の狭間にある場所」



お決まりの質問に、お決まりの回答

定型文と化したそれを、淡々と返せば
地面にぺたりと座り込んだままの
その女の子は、不安げに瞳を揺らす



「……私、死んだの?」

「覚えてない?」



幼い容姿をしているけれど
ここでは、それは年齢の判断材料にならない

なぜなら
死んだ時の年齢、姿ではなく
本人が、一番思い入れのある時の姿で
ここを訪れるから

本人が望むままに
中身もそのまま、その時のまま
幼くなっていたり、逆もまた然(しか)り



「…………なにも、思い出せないの……」

「そっか。じゃあ、思い出すまで
のんびり過ごせばいいよ」



彼女は混乱しているようだったけど
俺は、そういう反応にも慣れたものだ


彼女のような人間は珍しくない


何も思い出せない
記憶喪失状態で、ここを訪れる人間は
今までも何人もいた


すぐに記憶を思い出す人もいれば
長い時間をかけて、少しずつ思い出す人
何も思い出せず、そのまま去っていった人もいた


「………のんびり」

「うん。生き物は無理たけど
それ以外なら、なんでも創れるからここ」


「あなたも……死んでるの?」



答える代わりに、彼女の手を取り
自分の胸に当てる



「…………心音、ない…」

「死んでるからね」



かつてあったはずの
それは、どんな音だったか

自分の体温とは、どういうものだったか

それも、思い出せないまま



「…………管理人さんは、ずっと、ここにいる?」

「いるよ。管理人だから」

「………よかった」

「ん?」

「…………………ひとりになるの、怖い……」




どうやら、「今」目の前にいるこの子の中身は
年相応のようだ


知らない場所で
迷子になって不安がる、幼い子供そのもの



見ず知らずの人間に
いきなり、自分は死んだと聞かされ

知らない場所で、本人は何も覚えてない

まわりに見知った相手は、ひとりもいない


……まあ、不安になって当然だ



というより


自分含め、今まて出会った記憶喪失者が皆
肝が据わっているというか、無頓着というか
特殊だっただけで

この子の反応が
人として普通なのかも知れない
< 3 / 30 >

この作品をシェア

pagetop