きみと、境目の停留場にて。
「じゃあ、きみの記憶を見に行こう」

「覚えてないのに?」

「言ったでしょ?
僅かな欠片を空間が拾い上げて
景色に投影してたりするって」

「この家みたいに?」

「そう」



彼女が目を覚まして
随分と落ち着いたみたいなので
この停留所を散策することを提案した



ここでの過ごし方は自由だ


感情のまま叫ぶも、動くも
留まるも、進むも、止まるも


気が済むまで、本人の好きなようにさせる
俺はただ、それを見守るだけ


この子の場合、記憶を思い出さないと
先に進めないみたいだから
とりあえず、記憶を思い出すきっかけを探そうと思う



「管理人さん」

「なに?」

「管理人さんは
なんで猫のお面つけてるの?」

「なんでだろうね
目印みたいなものなのかな」



あの謎の存在
時々、語りかけてくるそれの
聞くところによれば

この境目には
ここと同じような空間があって
俺以外にも、たくさん管理人がいるみたいだから
あの謎の存在が、俺達を識別しやすいように
この面を与えているのかもしれない


直接、命じられたわけじゃないけど
いつも気づいたら、そばにあったから
つけろってことかなと解釈して
いつからか、つけるようになった



「管理人さんは、なんでここにいるの?」

「んー…罪滅ぼし?」

「つみほろぼし?」

「悪いことをしたから、ここで働いてる」

「悪いことって?」

「自分で自分を殺しちゃったんだって」

「……………そうなの」



返す言葉に悩んだのか
彼女は困り果てた顔で、それだけ呟いて
しばらく黙り込んだ

けど、気を取り直すように
また、俺に色々質問を浴びせてきた



「管理人さんは何歳?」

「何歳なんだろうね
でも、今のきみよりは大人だと思うよ」



ぱっと見、自分は
10代後半~20代前半の男

この姿のまま、この中身のままが
本来の自分だと言うならの話だけど


自分に関することは覚えてないけど
日常生活に必要な最低限の知識
一般教養は持ち合わせている

博識ではないが、無知でもない

ここを訪れる人達の世界を見ても
それが何か認識できるものも多いから



「分からないの?」

「きみと同じだよ。おれも記憶喪失」

「………おそろい?」

「そうだね」
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