きみと、境目の停留場にて。
「夏の記憶が多いね。夏が好きとか?」

「そういうわけじゃない……と思う」

「思い入れのある季節って事かな」

「うーん…」



停留所を歩き続ける

ころころ変わる景色は
どれも夏の色が強く残る

目に留まる植物、映す空の形、色、空気の匂い



「………暑いけど、寒い…?」

「暑い日にアイス食べる、みたいな?」

「ううん、そうじゃなくて……」



「…………寒くて、苦しい……?」



変わる景色に連動するように
自分の中で、何かが反応するのか
彼女はぽつぽつ、抽象的な言葉を口にする

その度、俺は答えに近付きそうな言葉を探す



「夏風邪?」

「……うーん」




…………




「……………おばあちゃんの家」

「うん?」

「あの家、おばあちゃんの家!」

「思い出した?」

「ちょっと思い出した!」


ぱぁっと表情を輝かせる彼女


「毎年、夏におばあちゃん家に遊びに行って…
これ、全部、おばあちゃん家で見た景色」

「そう」

「お父さんとお母さん、後、妹と一緒にね
お祭り行ったり、花火したり…」



……記憶を思い出すの
意外と時間かからないかもしれないな

ひとつ思い出す毎に
それに連なる記憶が蘇るようで
彼女は、夏の日の出来事をつらつらと話続ける



「……楽しくて、でも………」

「?」


嬉しそうに話していた彼女の顔色が急に曇る



「どうかした?」

「……………なんか、……………くるしい」



胸を押さえて
そのまましゃがみこんでしまった彼女

膝をついて、顔を覗き込めば、顔面蒼白



「今日はここまでにしよう」



どうやら、この夏の記憶は
彼女にとって、楽しいだけのものじゃないらしい


彼女を抱き上げて
一旦、あの家へ戻ることにした
< 7 / 30 >

この作品をシェア

pagetop