クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
 メッセージを開くと、来週もう一度会えないかという内容だった。用件だけで、他の内容は一切なし。

「ええと」

 困惑しているところに、もう一通送られてきた。結婚式の細々としたことを決めたいらしい。少し驚いたけれど、政略結婚である以上、式や披露宴も対外的にも必要なものなのかもしれなかった。

 大丈夫ですと返すと、時間と待ち合わせ場所のURLだけが送られてきた。銀座の商業ビルだった。少し迷ってスタンプだけ送る。既読になったけれどそれ以上なにもかえってこなかった。

「……まあ、これくらいビジネスライクなほうが気楽なのかもね」

 呟いて肉豆腐を口に運び目を丸くする。大井さん、これ、多分母屋の夕食用の和牛をこっそり使ってる。思わず笑ってしまいながら、めったに食べられない「いい肉」を堪能させてもらった。




 翌週待ち合わせ場所である銀座にあるデパートの九階の空中庭園テラスに向かうと、天城さんはもう来ていた。芝生のあるスペースの手前で、茶色い紙袋を持ってじっと佇んでいる。

 シンプルなシャツにボトムス、なのに人目を惹くのは長身と整いすぎるくらいに整った眉目のせいだろう。
 立っているだけなのに、チラチラと男女問わず彼に目線を送っていた。

「すごいな、天城さん……」

 思わず感心してしまったあと、声をかけるのを少しだけ躊躇した。躊躇というか、気後れしてしまう。だってかっこよすぎる。自衛官だからだろうか、やけに姿勢もいい。

 どうだろう、私、一緒にいて浮かないだろうか。

 今日の服装はシンプルなブルーグレーのワンピースに真珠のネックレス、ヒールの高すぎないパンプスだ。……「高尾家の家格」のため、外出着は父の秘書をしている女性がいつも用意してくれていた。質のいいものだから服は天城さんと並んでいて浮きはしないだろうけれど、着ているのが私だ。大井さんは「綺麗」なんて褒めてくれるけれど……と、顔を上げるとばちりと天城さんと目が合った。

 少し離れたところで挙動不審気味になっていた私を、彼はすでに見つけていたらしい。
 さくさくと歩いてくると私を見下ろして「こんにちは」と耳に甘く響く低い声で告げた。淡々とした口調だから、私に対する親しみとかそんなことがあるわけではないのだろうけれど、それでもいい声すぎて一瞬ドキッとしてしまう。それを誤魔化すように頬を緩め、頭を下げた。

「お待たせして申し訳ありません」
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