クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
 そんな会話をしながらしばらく過ごしているうちに、痛みの感覚は短く、そして強くなっていく。

「海雪」

 焦燥に満ちた声で私を呼ぶ柊梧さんに、笑って答える余裕がない。柊梧さんは私に着けられている機械の数値なんかを気ぜわしく確認しながら、なんども私の汗をタオルで拭ってくれる。

「……っ、いった、い」

 呻いてしまうと、柊梧さんはおろおろと私の背中を撫でた。
 やってきた助産師さんは落ち着いている様子で「八センチくらいですね」と私を安心させるように微笑む。

「あとすこし。分娩台に移動しましょうね」

 車いすで分娩台に移動する。その間も柊梧さんがものすごく緊張しているのが伝わってきていた。
 助産師さんが柊梧さんの背中を叩いた。

「あのねえ、お父さんがそんなでどうするの。産むのは奥さんでしょ」
「そうなんですが」

 柊梧さんの、こんなに弱弱しい声は初めてかもしれない。彼の強く寄った眉、その眉間に痛みのあいまに手を伸ばす。指のお腹でゆるゆる撫でると、柊梧さんは一瞬泣きそうな顔をした。





 そうして、人生で一番痛くて幸福な瞬間を迎える。

 分娩室に響き渡る赤ちゃんの元気な声に、柊梧さんが肩の力を抜く。次の瞬間には私の血圧や出血量を心配しはじめた。私の手首をつかんで脈をとるような仕草をした。

「少し血圧が低くないですか? 出血量はどれくらいでしたか」
「……ご主人、医療関係?」

 助産師さんが苦笑しながら「大丈夫ですよ」と点滴を開始してくれる。血流量を増やして血圧を上げるのだと説明をうけた。多分、そんなに急がないでいい処置だったんじゃ……? 柊梧さんは真剣にモニターとにらめっこしていたけれど。

「お待たせしました。どうぞ、抱っこしてみて」

 別の助産師さんがあかちゃんをおくるみに包んで連れてきてくれる。胸の上に乗せられた、小さな小さな赤ちゃん。ふにゃふにゃしていて、とても温かい。

 そっと頬を撫でた。かわいすぎて心音が高鳴る。こんなにかわいい子がお腹にいたんだ。顔立ちをまじまじと見てみれば、どこからどう見ても柊梧さんにそっくり。

「起き上がれそうなら、お乳を上げてみましょうか」

 助産師さんの言葉に頷く。

「柊梧さん、すみませんちょっと赤ちゃんを抱っこ……柊梧さん?」
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