クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
「……いや、俺が早く来すぎた」

 微かに眉間にシワを寄せたままそれだけを告げて、着いてこいと言わんばかりに彼は私に背を向けた。慌てて後を追えば、彼は芝生横のウッドデッキに設置してあるテーブルの前に立つ。

「……?」

 意図がわからず小首を傾げた私に、彼は椅子を引いて座るように示す。慌ててお礼を言いながら座る。

 天城さんはそれに対して無言のまま、向かいの椅子に座り持っていた紙袋から透明のテイクアウトカップに入ったドリンクをふたつ、取り出した。

 ひとつはブラックコーヒー。
 もうひとつは、私が飲みたいな?と思っていたクリームたっぷりのデザート系ドリンクだ。
 抹茶風味。
 ストローだけでなく、わざわざスプーンまでつけてくれていた。
 突然のことに目を瞬いていると、天城さんは変わらぬ表情のままコーヒーを飲み始める。
 ……これは、飲めということでしょうか。

「あ、ありがとうございます。いただきます」

 そっと天城さんをうかがうも、天城さんの視線は明後日の方向だ。芝生広場のほうをなぜか険しい目つきのまま見つめている。

「……?」

 疑問に思いつつも、とりあえずいただこうと蓋を開けた。とりあえず、まずはクリームをいただく派なのだ。
 大学までは自由に使えるお金がなかったから、社会人になって初めてこの生クリームたっぷりのドリンクを飲んだときすごく感激した。それ以来、期間限定のものは必ず飲むようにしている。
 ひとくちクリームを口に入れれば、甘くてふわふわのクリームと抹茶の苦味がマッチして最高に美味しい。

 ついつい頬を緩ませていると、ふと視線を感じた。目線を上げると、天城さんとパチリと目が合った。
 天城さんはぐっと眉を寄せたあとに言う。

「たまたまそのカフェの前を通った。見合いのときに飲みたいと言っていただろう」
「……あ」

 目を瞬き、ドリンクに視線を落としてからもう一度彼を見た。表情は変わらない。
 でも、覚えててくれたんだ。
 私がいくら喋っても、生返事みたいなのしか返ってこなかったから、興味がないのだろうと思っていたけれど……まあ実際、興味はないのだろうけれど、でも記憶して、こうして買ってきてくれたんだ。

 小さく笑う。
 やっぱり、優しい人だ。

「よかった」

 つい零れた言葉に、天城さんが微かに眉を上げた。

「なにがだ」
「結婚相手が、天城さんで……」
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