クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
 言った瞬間に、コーヒーを飲んでいた天城さんがむせた。

「あ、天城さんっ。大丈夫ですか?」
「っ、すまん」
「いえ、すみません」

 私はしゅんと下を向く。

「変なことを言って」
「っ!」

 天城さんがばっと顔を上げ、それから無言でコーヒーを飲んだ。相変わらず険しい表情のままで、私は空気がいたたまれなくなって、一生懸命にドリンクを口に運ぶ。

 天城さんは喉が乾いていたのか、あっという間にコーヒーを飲み終わってしまう。透明なカップの中で、残った氷が陽光に煌めく。

 さすがにそのスピードで甘いデザート系ドリンクは食べ終われないというか、飲み終われない。ひとり慌てていると、ちらっとこちらをみた天城さんが「ゆっくりでいい」と耳心地の良い声で言う。

「すまん、慌てさせたな」

 目を瞬き、天城さんの顔を見る。今度は目が合っても逸らされなかった。

「君のペースで構わない」
「……はい」

 素直に頷き、春の日差しの中ゆっくりとドリンクを飲む。天城さんはなぜだかじっとそんな私を見ていた。観察でもしているのかなと思うくらい。

 でも不思議と居心地がいい。
 ここにいていいと言われているような、そんな気がした。

 飲み終わると、天城さんがカップを紙袋に回収してくれた。

「もう少し休むか?」
「え? あ、いえ、大丈夫です」

 そうか、と天城さんは立ち上がる。私は天城さんについてテラスから建物に入った。

「……ブライダルのサロンを予約してある」

 天城さんはどこからともなく現れたデパートのコンシェルジュさんにカップが入った紙袋を渡しながら私を見た。ブライダルのサロン?
 少しだけ前を歩く天城さんの姿勢のいい背中を見つめ、すぐにウエディングの相談カウンターのことだと気がついた。

「君はどんな式がいいんだ?」

 歩きながら聞かれ、目を丸くする。そんなこと聞かれるだなんて思っていなかったのだ。
 だってこの結婚は、私にとっても彼にとっても避けられない仕方のないもので、だからそれなりに無難な式や披露宴にするのだろうって……そこに、私の意思や希望が入る余地があるなんて思ってもみなかった。

 だからびっくりして……びっくりしすぎて、少し夢見ていた結婚式についてぽろっと話してしまう。

「か、かわいい感じの」
「かわいい?」
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